クラシックのミニコンサートを各地で開催し、若手演奏家に活躍の場を提供する。さらに、若手演奏家にヴァイオリンを貸与する。それもストラディヴァリウスなどの名器を、無償で。そうした一連の取り組みは、クラシック業界の現状に、強烈な危機感を抱いているから。今、何を変えなければいけないのか。日本ヴァイオリン社長の中澤創太氏に聞く。

(聞き手は坂巻 正伸)

中澤創太(なかざわ・そうた)氏
日本ヴァイオリン 代表取締役社長/CLASSIC FOR JAPAN 創設者/1985年、東京生まれ。父はヴァイオリン製作者の中澤宗幸、母はヴァイオリニスト中澤きみ子という音楽家の家系に生まれ、幼少より国際的に活躍する音楽家と触れ合いながら育つ。15歳で英国に留学。インターナショナルスクールに通いながら、オークション大手サザビーズや、世界的なイギリスの鑑定家Peter Biddulph Ltdに出入りし、十代から数多くの名器に触れる。上智大学外国語学部卒業後、株式会社電通へ入社。営業を経て、メディアプランナーとして、数々の音楽・文化を発展させるためのプロジェクトに関わった。電通在籍中、クラシック音楽の発展と若手音楽家の活動支援として、任意のプロジェクトチーム"Classic for Japan"を発足。2013年に同プロジェクトチームを一般財団法人化し、活動の場を広げている。また2014年には、名器ストラディヴァリウスをはじめ2万挺以上のヴァイオリン取扱実績を誇る創業34年の老舗、日本ヴァイオリン代表取締役社長に就任。(写真:鈴木愛子、上野英和=4ページ宗次氏との写真)

ストラディヴァリウスはじめ、スゴいヴァイオリンを数多く演奏家に貸し出している若手社長がいると聞いて、お話を伺いにきました。

中澤:私ども日本ヴァイオリンは創業34年で過去2万挺以上のオールドヴァイオリンの取扱実績がある会社で、これまで1000人以上の演奏家に名器を貸与しています。

中澤社長はクラシック業界一筋に歩まれて…。

中澤:…ではありません。父の後を継いで社長に就任したのは今年で、それまで電通で働いていました。

では、詳しいお話は先代に伺った方が…。

中澤:いやいや、ぜひ私に話をさせてください(笑)。クラシック業界のあり方に危機感を持って、いろいろ取り組んでいるところなんです。

食卓で実感したクラシックの危機

では、そのお話を(笑)。そもそも、クラシック業界に危機感を持ったきっかけというのは?

中澤:まだ子供の頃のことです。父はヴァイオリン製作・修復の第一人者(中澤宗幸氏)で、母はヴァイオリニスト(中澤きみ子氏)という家庭で育ちました。私は一人っ子なんですが、家族3人でご飯を食べるということが全くなくて…。

…これ、中澤家の危機の話じゃ…。

中澤:家族は円満なのでご安心を(笑)。3人ではないというのは、そこに必ず若手の演奏家がいたからなんです。音大生やその卒業生が毎日、入れ替わり立ち代わり来ていて、ご飯を食べさせてあげて、生活に困っている人には父がそっとお小遣いを渡したりとかしている。それを見ていて、子供ながらに「大丈夫なのか、クラシック業界は」と思っていました。

 プロの演奏を目の前で聴くと、その迫力に感動します。私は音楽一家に育ったのでそれを知っていますが、多くの方はなかなかそうした機会がないでしょう。「クラシックの素晴らしさを、多くの人たちに伝えて、親しんでもらうにはどうしたらいいだろう。そうして、演奏家がしっかり生活できる仕組みはできないものか」。15歳で英国に留学して著名な鑑定家の下で名器に触れたり、帰国して上智大学外国語学部で学ぶ間、折々にそんなことをずっと考えている中で、電通で働きたいと思うようになりました。いい音楽を皆に知らせるにはどうしたいいか、ブームを起こすにはどうしたらいいか。そんな方法をここなら身につけられると考えたからです。念願叶って入社できた時はうれしかったですね。

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