拙著『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)でも書きましたが、人と人のつながり(人脈)が、個人の成果・業績に影響を与えることは、経営学者のコンセンサスになっています。他方、その人脈づくりで女性は二重のハンディキャップがあり、それは本人の資質と関係のない、ホモフィリー理論に基づいた「組織の本質」として存在するのです。

 この問題はどうやったら解消できるのでしょうか。私は、このハンディキャップを根本的に解決する方法は、やはり前回の連載で申し上げたように、企業が多次元で組織ダイバーシティーを進めることだと思います。しかし、多くの企業ではこの実現にはまだ時間がかかりそうです。

 とは言ってもこのままでは煮え切りませんので、ここからは先は、最近の興味深い研究結果を紹介しながら、私の大胆な仮説提起をしてみようと思います。

社内メールを支配するのは誰か

 イバラたちの研究から約20年たった2013年、ネットワーク研究の第一人者であるカリフォルニア大学バークレー校のトビー・スチュアートと、イノベーション研究の大御所、ハーバード大学のマイケル・タッシュマンが、「オーガニゼーション・サイエンス」誌にある論文を発表しました(ダートマス大学のアダム・クラインバウムとの共著)。

 この論文では、ある巨大IT企業(従業員数3万人で、うち女性は3割)の従業員のあいだの社内の電子メール交換が分析対象となっています。スチュアートらは、2006年9月から12月にこの社内で行われた電子メールのやりとり総数1億1400万件を、同社の許可を得てサーバから入手し、その中からデータとして信頼性の高い1万5000人の電子メールのやりとりを統計分析したのです。その結果は興味深いものでした。本稿で重要なのは以下の4つです。

結果1 女性の方が男性よりも、社内電子メールの利用数が多い。

結果2 女性同士が社内メールを交換する頻度は、女性と男性がメールを交換するより頻度より62%も高い。

結果3 他方、男性同士がメール交換をする頻度は、女性と男性のメール交換頻度より低い。

結果4 女性同士のメールのやりとりは社内横断的である。すなわち、「同じ部署にいるか、部署をまたいでいるか」に関わらず、女性同士がメール交換をする頻度は高い。逆に男性同士がメール交換する頻度が高いのは、2人が同じオフィスにいるときだけで、オフィスの垣根を超えての男性同士のメール交換機会は大幅に減る。

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