だが、祖先から引き継いできたこの特性が、戦争を生み出す可能性を秘めている。
なぜ、こんな皮肉なことが起きるのか。
気鋭の脳科学者、中野信子氏に、脳の働きと戦争の関係について聞いた。
(聞き手 森 永輔)
先日、中野先生とある方によるライブ対談にお邪魔する機会がありました。その場で話題に上った「青シャツと黄シャツ」のエピソードにハッとさせられました。教育とナショナリズム、戦争の関係を考えるのに役に立つのではないかと思ったからです。
中野:身びいきについて調べるために行われたこんな実験の話でしたね。

脳科学者。東日本国際大学教授、横浜市立大学客員准教授 1975年生まれ。東京大学工学部卒、東京大学大学院医学系研究科医科学専攻博士課程修了。フランス国立研究所で研究に従事。 主な著書に『脳はどこまでコントロールできるか?』『脳内麻薬』『努力不要論』など。(撮影:加藤 康、以下すべて)
6~9歳の白人の子供を集め、青いシャツを着るグループと黄色いシャツを着るグループに無作為に分けます。そして、それぞれのメンバーがそれぞれのグループに属していることを毎日、意識させるように仕向けました。例えば、「青シャツグループのロバート君」と呼びかけるとか。青シャツグループと黄シャツグループに同じテストを受けさせ、グループごとの平均点を知らせるとか。
こうしたことを1カ月にわたって続けた後、面白い反応が確認されたのです。「競争すると、どちらが勝つか」と聞くと、67%の子どもが「自分の集団が勝つ」と答えたのです。また、グループ替えをするなら、今度はどちらのグループに入りたいかと問うと、8割以上の子供が「今のグループがよい」と応じました。こうした身びいきが生じることを「内集団バイアス」と呼びます。
小学生の時、隣のクラスはまるで外国のような存在であったことを思い出します。比較したわけでもないのに、自分のクラスこそが最も素晴らしいクラスだと信じて疑いませんでした。できればクラス替えはしたくなかったですね。
中野:あの時の対談ではお話ししなかった、「泥棒洞窟実験」というものがあります(注:泥棒洞窟は地名)。
10~11歳の白人男子で構成する2つの集団を近くの場所でキャンプをさせました。最初の1週間はそれぞれの存在を知らせずに過ごさせる。次の週に、偶然を装って、両集団を引き合わせました。その後、綱引きなどのゲームをして競わせ、お互いの対抗心を煽るように仕向けたのです。
その後、両集団の親睦を図るため、食事を一緒に作って食べたり、花火をしたり、イベントを催したのですが、結果は親睦どころではありませんでした。相手の集団が使うキッチンにゴミを捨てたり、殴り合いのけんかを始めたり、相手の集団の旗を燃やしたり、まるで戦争が勃発したかのような行動が見られたのです。
たった3週間のことですよ。お互い、なんの怨恨もないのに。
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