第1に、「デモグラフィー型の多様性」のマイナス効果は時間の経過とともに薄れていく可能性が、複数の研究で確認されています(例:米インディアナ大学のクリストファー・アーリー達が2000年にAMJ誌に発表した論文)。時を経てメンバー間のコミュニケーションが進めばその軋轢が消えて行く、ということです。

 しかし、他方で「このような軋轢は時が経過しても消えない」という研究結果もあり、結論はついていません(例:香港科技大学のジオタオ・リー達が2005年AMJ誌に発表した論文)。

 第2に、それよりも私が注目しているのは、経営学で近年注目されている「フォルトライン(=組織の断層)理論」です。

ダイバーシティの「次元」を増やせ

 フォルトライン理論は、1998年に加ブリティッシュ・コロンビア大学のドラ・ロウと米ノースウェスタン大学のキース・マニンガンが「アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー」誌に提唱して以来、研究が進んできています。この理論では、人のダイバーシティにも複数の「次元」がある点に注目します。

 たとえば、6人のメンバーから成る組織があったとして、そのうちの3人全員が「男性×白人×50代」で、残りの3人全員が「女性×アジア人×30 代」だったらどうでしょう。この場合、それぞれの3人のグループが、「性別、人種、年齢層」の複数次元で共通項を持ってしまうので、それぞれの3人同士が固まりがちになってしまいます(=組織にフォルトラインができてしまう)。

 これに対して、もし男性3人には30代、40代やアジア人もおり、他方で女性3人の中にも、50代や白人もいたらどうでしょうか。この場合は、男性・女性以外に、両者に複数のデモグラフィーの「次元」が入り組むので、はっきりとした組織内グループの境界線(=フォルトライン)がなくなり、結果として組織内のコミュニケーションがスムーズに行くのです。

 実際、その後の複数の実証研究で、この「デモグラフィーが多次元に渡って多様であれば、組織内の軋轢はむしろ減り、組織パフォーマンスは高まる」という命題を支持する結果が得られています。

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