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 不動産関連企業で今年42歳になる課長さんがいます。長い不況の時代から抜け出したのか、最近は少し市場が活性化しており、張り切って働いています。4人いる部下たちも、心なしか元気になってきている感触があります。

 先日、大きな契約が取れたお祝いに、みんなで居酒屋で乾杯しました。その席で、部下の1人からうれしいことを言われました。

 「僕はいま32歳ですから、課長とはちょうど10年離れていますね。10年後には課長のようになっていたいので、これからもいろいろ教えてください」

 お世辞半分とは分かっていても、思わず頬がゆるんでしまいました。そして、この部下は今後10年をかけてスキルを高めていけば、立派に成長するであろうことも容易に想像できました。というのも、この部下は大卒で入社してから約10年の間、着実にスキルアップを重ねてきたからです。自分のモチベーションが保てるような目標を進んで設定するなど、自主的な創意工夫が功を奏しているようです。

 課長は、この部下の過去10年の歩みをしみじみ思い出しました。

 「彼は入ってきたときから、成長が楽しみなやつだった。実際、期待通りに成長してくれた。しかし10年なんて、長いようであっという間だな」

 ほかに3人いる20代の若い部下たちも期待できそうです。「こいつらのために、オレにできることはやってやらなくちゃ」。部下たちが10年後にどうなるか、あれこれ想像しながら感慨にふけっていると、一番若い部下がこう言いました。

 「ところで、課長はご自分の10年後をどう思い描いているんですか?」

 お酒の酔いが回っていたからか、課長はうまく反応できませんでした。

 「え? オレ? まあ、そう簡単には教えられないな。ハハハ」

 非常にドキリとさせられる質問でした。何とか笑ってごまかしましたが、うまく回答できなかった理由は、お酒の酔いだけではありません。実は課長自身、10年後の自分の姿が全く描けていなかったのです。

 「そうだ、オレは10年後にどうなっていたいのだろう?」

 部長になりたいのだろうか。もっと上の取締役になりたいのだろうか。いや待て、今この部下が聞いてきたのは、肩書きや仕事のことだけじゃない。オレ自身がこれからの人生、どう生きていきたいかってことだ。