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 この実験でホリングスヘッドは、34組の男女のカップルに共同作業をしてもらい、その成果を比較する実験を行いました。この実験の特徴は、カップルを以下の条件で3つのタイプに分けたことです。それは(1)共同作業の際に、会話することも、互いの顔を見ることもできるカップル、(2)会話はできるけれど、互いの顔を見ることはできないカップル、(3)会話はできないが、互いの顔をみながら書面の交換によって意思疎通できるカップル、です。

 みなさんは、この3種類のカップルの共同作業の成果はどうなったと思いますか。

 まず、3タイプの中でパフォーマンスが最も低かったカップルは、(2)になりました。これは興味深い結果ではないでしょうか。「(2)互いの顔はみえないが、会話はできる」状態は、「(3)会話はできないが、顔をみながら文書交換できる」状態より、パフォーマンスは悪くなるのです。さらに、(1)と(3)のタイプでは、作業のパフォーマンスに違いはありませんでした。互いの顔さえ見えれば、口で話そうが、文書交換だろうが、コミュニケーションの効果は大差ない、ということです。

目は、本当に「口ほどにものを言う」

 この結果をもって、ホリングスヘッドは、目と目を合わせる「アイコンタクト」や顔の表情を通じてのコミュニケーションが、トランザクティブ・メモリーを高める効果を主張します。例えばカップルやグループが、何かこれまでに経験のない課題や疑問に遭遇したとき、彼らは言葉以上に互いの表情や目を見ることで、「誰が何を知っているか」を即時に判断するのではないか、というのです。まさに「目は口ほどにものを言う」ということです。

 もしルイスやホリングステットの研究結果に普遍性があるなら、それは、組織がトランザクティブ・メモリーを高めるには、メールや電話のやりとりだけでは得られない、互いに顔を突き合わせての、アイコンタクトや表情、あるいは身振り手振りも含めた、「言語を超えたコミュニケーション」を増やすことの重要性を示唆しています。

 その意味で私が危惧しているのは、最近の日本企業です。ここからはあくまで私個人の主観ですが、少なくとも一部の日本企業では、昔は当然のように用いられていた直接対話によるコミュニケーションの機会が減っている印象があるからです。