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 本連載では、米ビジネススクールで助教授を務める筆者が、海外の経営学の知見を紹介していきます。

 さて、私は2012年『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)という本を刊行し、大きな反響をいただきました。そして複数の方々から「この本を書くにあたって、影響を受けた経営書はあるのですか」という質問を頂戴しました。

 拙著を書くにあたって私が影響を受けたのは、経営書ではありません。それは東京大学の宇宙物理学者、吉井譲教授が2006年に書かれた『論争する宇宙』(集英社新書)という、宇宙物理学の歴史をわかりやすく紹介した本です。

 物理学はド素人の私ですが、数年前にたまたま手に取って感銘を受けたのです。そして、経営学で似たような本が書けないだろうか、と考えるようになりました。

 『論争する宇宙』で印象深かったことが、宇宙物理における「理論と実証のせめぎあい」です。

 宇宙物理の世界では、たとえばアインシュタインのような理論家が、彼の信じる宇宙法則を記述した「理論」を構築します。他方でその理論が本当に正しいのか、宇宙の実態はどうなっているのかを「実証」する必要もあります。宇宙物理なら、たとえばそれは高性能の望遠鏡を使って星や銀河の動き・明るさ・色などを丹念に「観測」することです。

 このように、多くの「科学」と名のつく学問では、観測・実験・フィールドワーク・統計分析などを通じて、地道な実証研究が行われます。そしてこれは、社会科学であることを目指す世界の経営学者が行っていることでもあるのです。

 今回はそのような地道な、 しかしとても興味深い、実証分析に関する話題を紹介しましょう。それは「結局のところ、儲かる要因って何?」という、経営の根本を問う疑問なのです。

重要なのは、産業か、企業そのものか

 企業の「儲かる・儲からない」を決める要因とは、結局は何なのでしょうか。

 まず、産業による違いは大きいかもしれません。たとえば米国では、製薬業は全体的に収益率が高いと言われます。他方、航空業界は過当競争といえる状態にあり、多くの企業が厳しい経営を強いられています。