全1730文字
今日の診察:肺気腫
 肺の機能が破壊される肺気腫は、 COPD(慢性閉塞性肺疾患)の代表的な病態の1つ。何らかの原因で肺胞の壁が壊れて大きな気腔(何も働きがなくなってしまった空間)を形成し、張り巡らされた毛細血管が壊れることによってガス交換ができなくなる。原因はいろいろあるが、80%は喫煙によるものだ。
イラスト:市原すぐる

 肺は、スポンジの穴のような形をした、約3億個もの小さな肺胞で形成されている。その肺胞を包み込むように、細い毛細血管が張り巡らされており、呼吸で吸い込んだ新鮮な空気から血液中に酸素を取り込み、いらなくなった二酸化炭素を入れ替えるガス交換を行っている。

 そんな肺機能が破壊される肺気腫は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の代表的な病態の1つだ。何らかの原因で肺胞の壁が壊れて大きな気腔(何も働きがなくなってしまった空間)を形成し、張り巡らされた毛細血管が壊れることによってガス交換ができなくなる。

 大気汚染の継続的な刺激や肺組織の老化、日本人では稀だが遺伝、α1-アンチトリプシン欠損症(α1-アンチトリプシンという酵素が先天的に欠損する病気)など原因はいろいろあるが、80%は喫煙によるものだ。本来なら40代頃に発症し、50~60代で患者数はピークに達する。

 しかし患者の中には、単なる咳や痰だとやり過ごして受診しない例も少なくない。何十年も月日を重ねて重症化すれば、普通には呼吸できなくなることがあり、酸素ボンベを持ち歩く(在宅酸素療法)不便を強いられることもあるので、早期治療を心がけたい。

 この病気の代表的な症状は、息切れ、運動時の著しい呼吸困難、風邪が原因ではない継続性のある咳や痰など。人と歩いていると自分だけ歩くのがつらくて遅い、ゴルフでグリーンのアップダウンが苦しいなどという時も注意が必要で、呼吸器科の受診をお勧めする。

 診察では、第1に呼吸機能検査(スパイロメーター)で肺活量と肺の収縮力を確認。呼吸がうまくできず肺に空気がたまった状態のため、X線胸部検査では肺の膨張が見られ、CT(コンピューター断層撮影装置)では肺胞が壊れて空洞ができているのが確認できるので、すぐに診断がつく。

呼吸を楽にするリハビリも

 その昔、肺気腫は治療困難な病気とされていた。しかし最近では、一度壊れた肺を再生することはできないが、狭くなった気管支を広げて呼吸を楽にすることはできるようになっている。

 この病気にかかったら、禁煙が大前提なので、まずは禁煙パッチなどを使った指導がなされる。同時に、息切れなどの症状を緩和させる吸入式の気管支拡張剤や同成分の張り薬、抗生物質や去痰薬などが、症状によって組み合わせて処方されるだろう。

 さらにここ10年で、呼吸法、運動療法、栄養療法など、呼吸のリハビリテーションが確立されてきている。特に身につけてほしいのが呼吸法だ。

 例えば口すぼめ呼吸は、鼻から息を吸って口をすぼめて吐くと、頬が膨らんで口の中に適度な圧がかかる。その圧が、のどから気管支を通って肺の末梢にまで届き、肺がよく膨らむことによって、深い呼吸に導くことができるのだ。呼吸の長さは吸う:吐く=1:2くらいを目安にし、それが日常で自然にできるようになると、呼吸が相当楽になる。

 肺気腫は、長年の喫煙などの積み重ねで起こる呼吸器の生活習慣病と言える。何も症状がなくても、今の生活習慣を続ければ、ずっと後になって発症する可能性があるのが、この病気の怖いところだ。1日20本ずつ20年間喫煙を続けると、体からたばこの有害物質が抜けないと言われ、今禁煙しても、20~30年後に発症する人もいる。

 呼吸は、24時間休みなく無意識にする行為だけに、それが苦しいと著しいストレスに見舞われる。呼吸困難の様子を、四六時中、水中に潜っているつらさだと表現する医師もいるほどだ。生活習慣病は、自分である程度予防することができるもの。今からでも、喫煙習慣を見直してみてほしい。(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)


 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2013年3月19日に掲載したものを転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)