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社長が1万円の決裁をしている会社はアブナイ

 営業セクションで言えば、課長がメンバーと同じように担当顧客を持って営業している状態、部長も同じように営業している状態と言えるだろう。プレーヤー管理職が増えている現状では、よくある光景かもしれない。

 だが課長のミッションは、課全体の売り上げ目標に責任を持つことであり、そのためにメンバーを育成することだ。背中を見せた方が早いなら目標を持つのも1つの方法だが、それはあくまで手段の1つ。本来の課長のミッションではない。求められているのはメンバーを育成し、1人ひとりに個人目標を全うさせることだ。

 部長もしかり。部長には部の売り上げ目標に責任を持つだけでなく、部の責任者として進むべきベクトルを会社のベクトルと合わせていくミッションがある。会社から期待される未来像に向けた部の組織作りも必要だ。自ら売っている時間などないはずなのだ。

 個人目標を持つ課長や部長の「プレーヤー管理職」が増えてきた背景には、日本経済の変化がある。成長が続いた1960~80年代は、社員の誰もが「せめて課長くらいには」昇進したいものだと夢見た。実際、右肩上がりの業績の下なら課長のポストは量産できた。管理職をプレーヤーにしておく場合ではなく、彼らは部下のマネジメントに専念せざるを得なかった。

 ところがバブル経済がはじけて安定成長期に入ると、国内市場は縮小していくばかり。従来の純粋なマネジメント職としての管理職、「マネジメント管理職」のニーズは減っていく一方となる。

 メンバーのままでは、大した昇給が望めない。日本の若者の管理職志向は年々低下していると言われているが、「せめて課長くらいには」という気持ちも芽生えてくる。企業としては優秀な社員を引き留めるためにも、「プレーヤー管理職」を増発せざるを得なくなってきた。

 「プレーヤー管理職」の増加は、「マネジメント管理職」にも影響を与えてきた。とりわけなったばかりの「マネジメント管理職」は、自分たちはマネジメントだけをしていていいのだろうかと不安になる。以前トップセールスマンだった時のように、自ら売って背中を見せなければメンバーはついてこないのではないかと恐れる。

 「マネジメント管理職」の課長でさえ、自ら売ってメンバーに背中を見せなければ不安になり、プレーイングを見せようとする。しかし自分よりもたくさん売れるメンバーが出て来た途端に、課長はメンバーから信頼を失うことになる。本来、課長の仕事はそうではないはずだ。

 世の中には恐ろしいことに、社長が部長の、役員が課長の、部長がメンバーの仕事と、2段階下の仕事をしているようなケースもある。

 先日も私が支援している中堅B社の社長から、「1万円以上の決裁はすべて自分がやっている」と聞いて、すぐにやめるように勧めた。お金の管理は社長の重要な仕事の1つだ。会社としては1円単位で管理するとしても、1万円をチェックするのはこの規模の会社の社長の仕事ではない。

 1万円単位を本気で社長がチェックしているとどうなるか。時間は有限だ。彼は本来取り組むべき未来の成長戦略や経営計画などに、十分な時間が割けなくなる。変化の激しい時代、そうした企業に明日はない。

 よく聞くと、社長室のデスクにうず高く積まれた決裁書類をB社長がこと細かく見ているわけではないそうだ。それはそれで困ったことになる。決裁を上げる部門も、経理部門も「社長が見ているから」とろくにチェックをしなくなるからだ。結局会社として、誰もチェックしていない状態に陥ってしまう。

 ならば社長が見ると宣言することは、会社としてのリスクを高めることにしかならない。1万円単位、1円単位のチェックは必要だが、それは現場の仕組みに組み込むべきで、社長の仕事にすることではないはずだ。