第1に、この「部分をつなぎ合わせる」ために必要な視点は、それぞれの業界・企業で大きく異なるからです。

 そして私は、だからこそMBAでケース分析をすることが重要なのだと考えています。ケース分析では、1企業が置かれている具体的な状況を多角的な角度から「部分分析」します。そしてそれらをまとめあげ、その企業は今後どうすべきか、最終的な「1つの決断」について議論するのです。

 多くの教授がその時に重視するのは、部分を通じての一貫性です。それぞれの部分分析から得られた結論に矛盾がないような1つの最終決断を導けるのが、理想的な状況だと考えられているはずです(私もこういうアプローチをとります)。

 しかし「どのような条件なら部分同士が一貫性をもちうるか」は、業界や企業の事情で様々です。何より、一貫性のある「きれいな正解」はなかなか出るものではありません。だからこそ、教授と生徒たちが思考トレーニングとして互いの意見をぶつけ合うケースディスカッションがMBAでは重要なのだ、と私は認識しています。

社会科学に潜むトレードオフ

 そして第2の理由は、率直に申しあげて、経営学がまだそこまで発達していないということです。というよりも、これは社会科学にひそむ本質的な難しさともいえます。

 お隣の経済学には「一般均衡」という考えがあります。私は経営学者なので不十分な理解ですが、一般均衡分析では、製品市場・労働者市場など、複数の市場(=部分)の相互関係を同時に分析できます。

 たとえば、いま日本ではTPP(環太平洋経済連携協定)への参加が話題になっていますが、一部の政府機関はこのTPP参加の経済効果を、一般均衡分析を基にしたシミュレーション・モデルで試算しています。(有名なものにGTAPというシミュレーション・ソフトがあります。日本で働いていた頃、私はGTAP分析に少し携わっていました。)

 一般均衡に基づいて「経済全体を描いた」シミュレーションを用いることで、たとえばアメリカの自動車産業が関税を引き下げたら、それが日本の鉄鋼産業の産出量や雇用にどのような影響をもたらすかといった、「ある部分の変化が、他の部分に与える影響」を分析できるのです。

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