他方で、この論文では世界銀行などのデータを使って各国の「事業のたたみやすさ」もいくつかの側面から定量化しています。そしてこの結果をみると、日本の倒産法や手続きは、必ずしもすべての側面で不利ではないようです。例えば、倒産手続きにかかる時間は0.6年で、米国や韓国(どちらも1.5年)よりも短くなっています。倒産の手続きコストも相対的に低くなっています。

 このテーマに関する研究はまだ端緒についたばかりですので、まだ結論を急ぐ段階にはありません。例えば、 南カリフォルニア大学のヨンウック・ペクが、『ジャーナル・オブ・エコノミクス・マネジメント・アンド・ストラテジー』誌に今年(2013年)発表した論文では、米国66万人のデータを使った統計分析の結果、2005年に米国の倒産法が改訂された後も、それが起業の活性化には影響しなかったと結論づけています。いずれにせよ、バーニー教授たちの問題提起もあり、このテーマが研究者のあいだで注目を浴びていることは間違いありません。さらなる研究が望まれる分野といえるでしょう。

 さて、ここまでの話を踏まえて、私の方から問題提起させてください。私は日本の起業社会を考えるときに、これまで経営学で分析されてきた「事業のたたみやすさ」の議論では不十分かもしれない、と考えています。実際、先の論文によると、日本の倒産法や行政手続きは必ずしも多くの項目で他国と比べて不利とはいえないようです。では追加で何を考えるべきかというと、もう一つのたたみやすさ、すなわち「キャリアのたたみやすさ」なのではないでしょうか。

キャリアのたたみやすさ

 皆さんもご存知のように、米国ではスタンフォード大学やハーバード大学などの有名大学でMBAなどの学位をとったいわゆるエリート層が盛んに起業をして、同国の経済を牽引しています。彼らはなぜ盛んに起業するのでしょうか。もちろん「彼らは優秀だから高度なビジネスアイディアを思いつく」とか、そういうこともあるのかもしれません。

 しかし、それに加えて、彼らは「仮に事業が失敗しても次の転職に困らないから、リスクがとれる」という側面も大きいのではないでしょうか。

 起業に失敗したときには、もう一度新しいビジネスを起こすのも選択肢ですが、他方で既存企業に転職する、という選択肢もあるはずです。すなわち「起業家としてのキャリアを一旦たたむ」わけです。

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