そこでポーター教授は、SCPを基に、具体的に業界の収益性を規定する『業界内の競争圧力』、『新規参入圧力』、『顧客の交渉圧力』、『サプライヤーの交渉圧力』、『代替製品の圧力』という5つの圧力(フォース)を示し、それぞれのフォースを分析するための定量・定性的な見方を示したのです。

 ちなみに、このツールを「ファイブ・フォース理論」と呼ぶ方がいらっしゃいますが、経営学的にはそれは正確ではないということになります。(学者がそう定義しているというだけなので、どうでもいいことですが)。

 そして、このように経営学者たちが生み出す経営分析・意思決定に役立つツールを発表する場こそが、HBRなのです。

 HBRでは、ややこしい理論を記述した「学術論文」は紹介されません。そのかわり、学術研究の成果から得られた実務へのヒントや分析ツールを紹介した「実務論文」が多く掲載されます。いわば、経営学者とビジネスパーソンの橋渡し役です。この意味で、やはりHBRはぜひみなさんに読んでいただきたい雑誌なのです。MBAホルダーの方々が書かれる経営のハウツー本で紹介されるのも、多くは「理論」ではなく「ツール」のはずです。(注)

 そして、 先端の分析ツールが多く紹介されるHBRよりもさらに厳選されたものだけがまとめられているのが、ビジネススクールで使われる経営学の教科書です。

 ビジネススクールは専門職大学院であり、その目的はビジネス・プロフェッショナルを育てることです。したがって、そこで読まれる経営学の教科書に学術的な理論の仔細が記載される必要はありません。代わりに、実務でも使えるような分析ツールや、理論から導かれた意思決定に役立つヒントが多くまとめられているのです。

依然ポーターが支配するMBA戦略論の教科書

 ここで重要なポイントを申し上げましょう。

 私は米国で経営戦略論を教えている関係で、これまでに何冊も同分野の教科書を読んできました。そしてわかったことは、どの教科書も(細かい違いはありますが)紹介している主な分析ツールは同じである、ということです。さらに驚くことに、それらの中身はかなり昔から変わっていません。なかでも、競争戦略論(=経営戦略論の主要分野)で紹介されている分析ツールは、ほとんどが依然としてマイケル・ポーター教授の生み出したものなのです。

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