本連載では、米国ビジネススクールで助教授を務める筆者が、海外の経営学の先端事情を紹介して行きます。
さて、私は2012年『世界の経営学者はいま何を考えているのか(以下、「世界の~」)』という本を上梓したのですが、その中で「『ハーバード・ビジネス・レビュー(以下、HBR)』は、米国の経営学では学術誌とは認められていない」と書いたところ、大変な反響がありました。
これは事実です。HBRは海外の経営学を知る窓口として、日本でもビジネスパーソンの方によく知られています。しかし米国の経営学者のあいだでは、同誌は経営学の「学術誌」とは認識されていません。
たとえば、米国の上位ビジネススクールにいる教授(=経営学者)たちは、評価の高い経営学の学術誌に論文を掲載しないと出世できないのですが、HBRはその基準に含まれていません。 私の様な若手が「HBRに論文を投稿したい」と言ったら、ベテラン教授から「そんな業績にならないことは、やめなさい」と言われるのがオチでしょう。
なぜでしょうか。この背景を理解していただくには、米国の、そして世界の経営学者が進めている研究の流れを理解していただく必要があります。
「理論」から「ツール」へ
連載第1回でも触れましたが、世界の経営学は社会科学の側面を重視しています。それは「経営の真理法則を科学的に追い求める」という態度です。
たとえば、みなさんの中には「攻めの経営戦略は守りの戦略よりも有効か」とか、「買収した企業の経営陣は追い出した方がいいのか」といったことで悩まれた方もいらっしゃるかもしれません。これらは、みなさんが知りたいと考えている経営法則です。
経営学者はこのような法則の何が正しいのか(真理に近いのか)を探求するために、(1)まず、理論分析を行います。理論分析とは、「なぜそうなるのか」という経営の本質についての因果関係を探求することです。そしてそこから経営法則についての理論仮説を導出し、(2)企業データを使った統計分析などによる実証研究を行います。そしてその結果を学術誌に投稿し、審査員から認められれば、晴れて学術論文として掲載されるのです。
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