正規軍同士の戦争では相手の居場所と兵力が特定できるので、戦場がどこになるか、そのために補給線をどう敷くべきか、事前に計画を立てられる。

 しかし、対テロ戦ではどこが戦場になるのか予測がつかない。そのため、アメリカの海兵隊は現在、必要な物資をできる限り自分たちで持っていく方向に動いているという。

 ビジネスに当てはめれば、商流と物流を分離することでロジスティクスを効率化した“商物分離”を、改めて“商物一体”に戻していることになる。

 それと並行して、突発的なテロ攻撃に素早く対応するために、現場への権限委譲が必要になっている。

 目の前で事件が起きているのに、いちいち本部に指示を仰いでいたら対応が後手に回ってしまう。そこで部隊には行動原則だけを事前に示して、具体的な対応方法は現場の指揮官の判断に委ねる。

 このコンセプトに米IBMは「アダプティブ(適応力)」というキーワードを与えて、ビジネスソリューションへの転用を図っている。

 ERP(Enterprise Resource Planning、企業資源計画)が登場して以降の企業組織は、すべてのビジネス情報を中央に集め、それを基にすべての計画を中央で立案し、トップダウンで末端まで指令を下すという中央集権化が顕著だった。

 しかし、それでは環境の変化に素早く対応できない。また、どんなに多くの情報を集めて、どれほど高度な解析エンジンを使っても、未来を見通すことなど不可能だ。

 実際のビジネスは、予想外の事態に必ず直面する。その対応を最前線の現場のリーダーに判断させる自律分散型の組織に変革することで、変化への対応スピードを上げる。

勝敗のカギは戦略よりも兵站

 戦史家のマーチン・ファン・クレフェルトは、その著作『補給戦――何が勝敗を決定するのか』(中央公論新社)の中で、「戦争という仕事の10分の9までは兵站だ」と言い切っている。

 実は第2次世界大戦よりもはるか昔から、戦争のあり方を規定し、その勝敗を分けてきたのは、戦略よりもむしろ兵站だったという。端的に言えば兵士1人当たり1日3000kcalの食糧をどれだけ前線に送り込めるかという補給の限界が、戦争の形を規定してきた。そう同著は伝えている。

 エリート中のエリートたちがその優秀な頭脳を使って立案した壮大な作戦計画も、多くは机上の空論に過ぎない。

 現実の戦いは常に不確実であり、作戦計画通りになど行かない。計画の実行を阻む予測不可能な障害や過失、偶発的出来事に充ち満ちている。

 史上最高の戦略家とされるカール・フォン・クラウゼビッツはそれを「摩擦」と呼び、その対応いかんによって最終的な勝敗まで逆転することもあると指摘している。

 そのことを身を持って知る軍人や戦史家たちの多くは、「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」と口にする。

 ビジネスにおいてもまた、「経営のプロはロジスティクスを語り、素人は戦略を語る」と言えるのかもしれない。

■変更履歴
記事掲載当初、本文中で「チェスター・ミニッツ大将」としていましたが、正しくは「チェスター・ニミッツ大将」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2010/10/19 13:00]

 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2010年10月19日に掲載したものを転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)

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