2011年には、紀伊半島を台風12号が通過した際、未曾有の豪雨が襲い、河川の氾濫や山体崩壊をともなう激甚な土石流災害により多くの犠牲者が出ました。2013年には、台風26号による集中豪雨で土石流災害が伊豆大島で起き、2014年に入ってからも7月9日に長野県南木曽町で土石流災害が発生、9月24日には名古屋市の名古屋駅地下鉄駅が集中豪雨により水没状態になりました。
なかでも、広島県安佐南区では74人の死者を出す土石流災害が発生しました。局所的な豪雨が土石流災害を引き起こし、アパートが丸ごと流されるなど、これまでの常識では考えられないような被害を引き起こしたことは記憶に新しいと思います。
巨大豪雨による水害とさらには山が崩れる土石流被害の頻発。日本の気象に、一体、何が起きているのでしょう。豪雨災害から自分の身を守るにはどうしたら良いのでしょうか。
そこで、『利己的な遺伝子』(リチャード・ドーキンス著)の訳者で日本における進化生態学の草分けの一人であると同時に、NPO法人鶴見川流域ネットワーキング、NPO法人小網代野外活動調整会議で都市河川の鶴見川や三浦半島小網代の森の保全活動を長年続け、国や地方公共団体の環境関連の専門委員を数多くこなしてこられた岸由二慶應義塾大学名誉教授に、豪雨災害から身を守るための術を教えてもらいます。
(聞き手は山根 小雪)
先生、今夏(2014年)の豪雨は本当に凄まじかったですね。青空が見えていたかと思うと、30分後には真っ暗になり、まっすぐ歩くことができないほどのゲリラ豪雨が降ったりします。夏の夕立なんて可愛い物ではありません。たぶん多くの人が、突然の豪雨に見舞われる経験をここ数年、何度もしていると思います。これって、やはり「地球温暖化」の影響なんでしょうか。
岸:個々のケースについて明確に言及することはできませんが、温暖化の影響とみて間違いないですね。温暖化で対流圏の含水量がどんどん増えていますから。今後ますます局所的に未曾有の豪雨が降る確率は高まります。対流圏の含水量がさらに増えたところで、大気が上空で極端な寒気にあおられれば、想像を超える豪雨が降るでしょう。そして、局所的で深刻な土石流災害を誘発します。
日本では未だに「温暖化懐疑論」がメディアをにぎわせることがありますが、先進国の中で「懐疑論」がこれほど横行して、それに行政がふらふらするような国は日本だけかもしれませんよ。化石燃料の大量消費による二酸化炭素(CO2)などの排出の結果、温室効果が起き、地球全体の平均気温が上がり、さまざまな気候変動を起こしている、というのは、科学の常識だと私は思っています。
気候変動によって、なぜこれほどまでに凄まじい雨が降るのでしょうか。
岸:「雲のでき方」が変わったんです。局所豪雨は、基本的に積乱雲ができたときに起きます。急速に積乱雲が発達すると、その下で雨が降る。ところが近年の局所豪雨では、唐突に積乱雲が次々と列状になって発生しているケースが多いのです。積乱雲は雨を降らせながら移動しますが、列状に積乱雲ができると、通り道にあたった場所には継続して局所豪雨が続くわけです。その結果、短時間にひとつの場所に大量の雨が降り注ぐ。今回(2014年)の広島県安佐南区で起きた豪雨災害も、このパターンでした。

岸 由二(きし・ゆうじ)氏
慶應義塾大学名誉教授
1947年東京生まれ。横浜市立大学文理学部生物学科卒業、東京都立大学理学部博士課程修了。理学博士。進化生態学、流域アプローチによる都市再生論、環境教育などを専門とする。鶴見川流域、多摩三浦丘陵など首都圏のランドスケープに沿った都市再生活動の推進者としても知られる。著書に『自然へのまなざし』(紀伊國屋書店)『いのちあつまれ小網代』(木魂社)、『環境を知るとはどういうことか』(養老孟司との共著、PHPサイエンス・ワールド新書)、訳書に『利己的な遺伝子』(ドーキンス、共訳、紀伊國屋書店)、『人間の本性について』(ウィルソン、ちくま学芸文庫)、『生物多様性という名の革命』(タカーチ、監訳・解説、日経BP社)、『足もとの自然から始めよう』(ソベル、日経BP社)、『創造』(ウィルソン、紀伊國屋書店)、『「流域地図」の作り方』(ちくまプリマー新書)など多数。
Powered by リゾーム?