また、私のいる学科は少し前に新しい助教授をリクルーティングしまして、先日、候補者の1人である韓国人の方が当校に来て研究発表しました。そのときに発表会場に集まった教授・博士学生の総勢20人のうち、アメリカ人は1人で、残りは大半が中国人、そしてインド人と韓国人が数人、そして日本人(=私)という構成でした。思わず「ここは本当にアメリカなのか」と言いそうになってしまいました。

 そして、これはあくまで私の肌感覚なのですが、インド出身の方と比べると、中国系の人たちの方が、同胞内での「インフォーマルなコミュニティー」をより活用している印象があります。

 たとえば、私が数年前に米国で就職活動したときに会った某大学の中国人助教授は、全米の多くの有力ビジネススクールの助教授の初任給を把握しており、「○○大学より、この大学の方が給料はいいわよ」などと私に教えてくれました。全米のビジネススクールに多くの若手の中国人教員がいるので、彼らは同胞同士でそういう情報を普段から交換しているのだそうです。

情報戦は出願前から始まっている

 実は、私は就職活動をしたときに、この中国人コミュニティーの情報にかなりお世話になりました。この連載の前々回で申し上げたように、米国の経営学界では日本人の教員や博士課程の学生がとても少ないので、アカデミア内での「日本人コミュニティー」がそもそも存在しません。私は、仲の良い中国人の友人が同じ時期に就職活動をしたので、彼から色々と中国人コミュニティーでまわっているインフォーマルな就職情報を教えてもらって役立てたのです。

 そして、起業家のコミュニティー同様、この学者のインフォーマルなコミュニティーも、国境を越えるようになってきています。「超国家コミュニティー」が経営学のアカデミアでも生じているのです。

 たとえば、私の友人の台湾人助教授によると、台湾では多くの学生が米国の博士号を目指すのですが、彼らの間では米大学院に出願する前から、たとえば「某M大学の経営戦略学科は、仲の悪いA教授の派閥とB教授の派閥に分かれていて、どちらの派閥に入るかで博士課程で生き残れるかどうかが違う」などといったインフォーマルな情報が交換されるのだそうです。私が10年前、日本から米国の大学院に出願したときは頼れる日本人がほとんどいなかったので、この話を聞いて「出願前からこんなに情報量で差がついていたのか」と愕然としたのを覚えています。

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