なぜこのような違いが出てくるかというと、これは各分野の財政状況によるのではないかと私は推測しています。ビジネススクールは他学部よりも高いMBAの授業料や寄付金などで財政に余裕があることが多いので、最初から入学するPh.D.学生の数を絞り、その代わり一年目から生活の面倒をみることができるのだと思います。

 このように米ビジネススクールのPh.D.プログラムとは、(1)あくまで「知の競争に勝つ」ための経営学者を5~6年かけて育成するところであり、(2)パフォーマンスが悪いと途中で退学させられ、(3)その代わり(上位の大学の多くでは)生活もサポートしてくれる、ということになるのです。

MBAは「投資かつ収益源」、Ph.D.は「純粋な投資」

 この両者の違いはどこから来るのでしょうか。

 言葉に語弊があるかもしれませんが、私は米ビジネススクールを運営する側にとっては、MBA経営は「投資であるとともに収益源でもある」のに対し、Ph.D.は「純粋な投資」であるということではないか、と理解しています。

 もちろんMBAプログラムの評価というのは、そこからどれだけ優秀な人材をビジネス界に輩出したかに影響されます。その意味でMBA学生を教育するのは、名声を高めるための重要な「投資」です。とはいえビジネススクールはMBA学生から高額な学費もとっていますから、それが大きな「収益源」にもなっています。

 他方で、Ph.D.学生には生活までサポートしてくれることすらあるのです。そしてなぜこのような「投資」が行われるかといえば、それは「米国の大学は知の競争をしている」からに他なりません。

 前回・前々回も述べたように、米国では大学間の競争が激しく、特に研究大学は研究実績でその評価を高める必要があります。そのためには、そこにいる教授が優れた研究業績をあげることに加えて、「その大学でPh.D.を取得した学生が(他大学の教員となってから)優れた研究業績を出すこと」も、とても重要なのです。

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