このコラムでは、ビジネスリーダーに「本当の意味」を理解してほしいビジネス用語ついて解説していきます。拙著『ビジネスマンの知的資産としてのMBA単語帳』(略称『MBA単語帳』)に掲載した言葉の中から、毎回2つか3つの言葉をピックアップして解説し、「組み合わせ」の形で紹介していきます。
今回は、タクティクス(tactics)とストラテジー(strategy)。漢字では戦術と戦略。「それって何ですか」と日本人に聞くと、「戦い方」とか「勝つための方策」といった言葉が返ってきます。確かに、どちらも「戦」という漢字が入っていますから「戦うこと」に関係すると思うのは当然。でも、本当にそのニュアンスでいいのでしょうか?
「ワラライ」って何のこと?
私自身、英語が自分の言葉になったと感じられるようになったのは、仕事で英語を使ってずいぶん時間がたってからのことです。
そのピークは早稲田大学ビジネススクールのシンガポールにおけるプログラムの責任者になった時でした。ただでさえ難しい英語での授業を「アウェー」で行ったり、現地関係者とのハードな折衝をしたりして、苦労の連続。朝起きると家族に「英語で寝言を言ってたわよ」。そんな修羅場の経験を経てやっと英語の世界に「入り込む」ことができた気がしました。
その前には、外資系の会社で人事部長として勤務していました。イギリス人の日本法人トップから「このタクティクスをワラライで成し遂げるように」と指示されて、「ワラライって何?」と考え込んでしまった経験もあります。後になって、「ワラライ」と聞こえた言葉はウォータータイト(watertight)だったと分かりました。時計や携帯電話の場合には「防水」という意味になります。
戦術が防水――??。最初は全く意味不明でしたが、そのうちタクティクスをウォータータイトで行うとは、「水も漏らさぬように」「手抜かりなく」遂行するということらしいと分かってきました。そして、その時に初めて私には「タクティクスとは何か」がストンと腑に落ちたのです。
それでは、読者の皆さんに質問です。私が「ワラライ」で成し遂げるように命じられた「タクティクス」は、日本語にすると、どういう意味でしょうか?
タクティクスの最も一般的な訳語は「戦術」ですが、「方策」や「策略」などの訳もあります。漢字から考えると、「戦いに勝つために策を巡らせる」といったイメージがわくのは当然です。しかし、「ワラライで」の使い方から考えると、タクティクスは必ずしも「戦う」ことだけに関わるわけではなくまた「謀りごと」のニュアンスだけというわけでもないのです。
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