「他者批判、つまり周囲の人への文句、愚痴ばかりでした。自分の価値観が非常に厳しく、こうあらねばならないと思い込んでいますから、不平・不満が溜まっていたのです。もちろん、良い人、できる自分を演じ続けている自分へも非常に怒っている状態でした。しかし、まだ言いたいことは誰にも言えない状態でした」

 その状態の改善のために、次に始めたのがアサーション・トレーニングだ。このトレーニングの基礎を築いたのは米国の心理学者、ウォルピ(Wolpe,J.)とラザラス(Lazarus,A.A.)である。自分とともに相手も大切にする自己表現の仕方を訓練する。自分の感情や考え、要求などを適切に表現する能力を養うので、「言いたいことが言えない人」「対人関係で自己中心的な人」「引っ込み思案な人」などに有効とされる。

自分の気持ちを客観的に表現する訓練

 Yさんは、アサーション・トレーニングのDESCという手法を使った。

D(Describe)=自分が困っている客観的事実をできるだけ穏やかに話す
E(Explain)=その事実に対する自分の気持ちを話す
S(Specify)=その事実に対して可能な解決方法を話す
C(Choose)=相手がOKなら良いが、Not OKならほか他の方法を再提示する

 Yさんは、言いたいことが溜まっていたKさんに、毎回の面談で、アサーション・トレーニングの課題を出した。

 ある日の面談でKさんは、同僚に腹を立てていた。仕事をちゃんとやってくれないそうだ。しかし、注意をする(愚痴を言う)自分が許せないので注意できなかった。実際に注意の仕方が分からない。無性に腹が立つそうだ。そこで、アサーション・トレーニングのDESCの流れで、解決方法を探った。

D=仕事をしてくれないという客観的事実を話してもらう
E=仕事をしてくれない事実に対する自分の怒りの気持ちを話してもらう
S=解決方法を一緒に考え、提案する

 この場合の解決方法は、同僚に対して意見を言うことだ。同僚の仕事のやり方を見ていて、「私はこう思うが…」と気持ちを表現してみることを提案した。そして、次の面談までに実際に試すことを課題とした。

 この課題は、周囲の人へ意見を言えるようにすることから始まったが、成功した時は言えたことを確認し合いながら共に喜んだ。不成功の場合は、C=また違う解決方法を一緒に考え提案し、励ましながら次の課題の成功のために、根気強く進めた。成功する数が多くなるにつれて、Kさんは自信を持ち、話し方のスキルも身に着けたようだ。自分の意見を周囲の人に言えるようになったKさんは、変わっていった。

 人は簡単には変わらない。自分が変わればいい。自分を受け入れられるようになったKさんは、他人や社会に対する見方も変わっていった。Yさんと面談を始めて3年が過ぎた頃だった。

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