Kさんが最初に言った言葉だそうだ。発症から10年以上過ぎたにもかかわらず、うつ病は治っていなかった。通院、投薬を続けているのに、精神状態は非常に悪い状態だった。

 Yさんの初期のカウンセリングは、Kさんの言葉を傾聴し、受容し、共感することだった。Kさんは「死にたい」と繰り返し、泣きながら母親の話をした。母親が大好きだった。素晴らしい女性だった。母親が言うことはすべて正しい。言いつけは守らなくてはならない。でも死んでしまったので辛くてたまらない。

絶対的な母親の教育にしばられていた

 Kさんにとって母親は絶対だった。Kさんは母親の厳格な倫理観・世界観の中で生きていた。Kさんが目にする社会・周囲の人の言動は、母親から教わった倫理観を通して見ると、全てが良くないものに思えたようだ。社会はこうあるべき、女性はこうあるべき、社会人はこうあらねばならない。社会や周囲の人への不平・不満が心の中に渦巻き、蓄積されていった。しかし、誰にも言えなかった。

 どうしてか? 不平を言うことなど、恥ずかしいこと、みっともないことだと母親から教え込まれていたからだ。そんな価値観を持つKさんは、他人の見方も厳しかったが、同様に自分にも厳しかった。すべての否定的な思いを溜め込み続けた末に、価値の基準である母親が急にいなくなってしまった。心のバランスが壊れ、うつ病を発症した。どうやって生きたらいいのか分からなくなり、自殺未遂に至ったのだろうとYさんは分析する。

 Yさんは、Kさんの目標を“自己受容 Iam OK.”に設定し、まず自分を受け入れられるように導いた。

 まずやってみたのは、コラージュ療法だった。コラージュ療法は、1970年代に米国の作業療法士ジェーン(Jane.M)が考案した芸術療法だ。コラージュはフランス語で「糊付けする」という意味で、20世紀の初めにピカソやブラックなどが使った現代美術の技法だ。雑誌やパンフレットなど既成の写真や絵などをハサミで切り抜き再構成し台紙へ糊付け(コラージュ)し、独自の世界を表現する。
 
 コラージュで表現することで、様々な心理状態を把握できるが、YさんはKさんの心理状態を診断するというより、会社の中で自分(母親)の価値観でがんじがらめになり緊張状態で苦しんでいるKさんを、綺麗なものに触れさせて、緊張を緩めてあげたかったのだそうだ。

 「“枠”が狭かったですね。自分で作り上げた社会や人と接する時の“枠”がとても狭く硬いものでした。まずは、素の自分の時間を作ってほしかった。コラージュの時間は何も心配なものがなく安心できることを認識してもらいました。その中で信頼関係も育み、心がほどけていく時間になるよう心掛けました。そして目指したのが自己受容です」

 Yさんと時間を過ごすうちに、Kさんは自分の本音を語りだした。

次ページ 自分の気持ちを客観的に表現する訓練