変調示す「3つのA」

とはいえ、時には厳しく注意しなければならない場合もある。どのように接すればいいのでしょう。

渡部:私はよく管理職の研修などで「かりてきたねこ」というキーワードを紹介しています。「(か)感情的にならない」「(り)理由を話す」「(て)手短に」「(き)キャラクター(性格や人格)に触れない」「(た)他人と比較しない」「(ね)根に持たない」「(こ)個別に叱る」の頭文字です。

 新入社員に対して特に注意したいのは、「同期のAさんはできるのになんでお前はダメなんだ」と、他人と比較して怒ることです。一昔前の企業や官庁では同期入社がたくさんいて、その中で比較され、競争することが当たり前でした。ただ、今の若者は他者と比較されることに慣れているわけではありません。必ずしも、奮起を促すことにつながらないでしょう。

 「個別に叱る」というのは、みなが見ている職場で注意するのではなく、個室に呼んで話を聞く、という意味です。そこで、「あなたには期待しているのにどうしたんだ」と、1対1でじっくり話す姿勢が大切です。

新入社員のメンタルに問題がないかどうか、どのように注意すればいいでしょうか。

渡部:タイミングとしては、ゴールデンウィーク明けに変調が出やすい傾向があります。新入社員も最初の数週間は緊張感があるので、あいさつや受け答えもはきはきしている。それが、1カ月ぐらいが経過し、心身ともに疲労感が蓄積してくると、元気がなくなってくる。

 「3つのA」と言われる変調の兆候があります。まず、「アブセンティズム(Absenteeism)」と言って、遅刻や欠勤の常態化です。遅刻が多くなったり、アポイントをすっぽかしたりする。うつ病になった人の過去の欠勤のパターンを解析する研究では、多くのケースでその初期に体調不良による休暇があることがわかってきています。

 2つ目のAは「アルコール(Alcohol)」で、飲み会で不自然に騒いだり、酒量が増えて顔つきがおかしくなったりするなどの兆候が出ます。ストレスを管理できない若者が、アルコールに逃げてしまうことがよくあります。

 最後が「アクシデント(Accident)。けがや事故、忘れ物などです。うつ状態になって、イライラ感や焦燥感が強くなり、こうしたことが増えてしまう。

様子がちょっとおかしいなと思った時の対処法は?

渡部:最悪なのが、遅刻やミスをした新入社員を上から「バカヤロー」と叱り飛ばすことです。そこはぐっとこらえて、休日の過ごし方やプライベートの話などでいいので、とにかく「傾聴」すること。耳が門の中にある「聞く」ではなく、外に出た「聴く」です。

 実は、これができない管理職が多い。ビジネスの世界で実績を残しているマネジャーには、ふんぞりかえって人の話を聞かない人が多いんです。相手が話している途中でさえぎって、すぐに解決策を示そうと自分で話し始める。会議や商談ではロジカルシンキングだけでいいのですが、部下とのコミュニケーションはそれだけではだめです。我慢して、最後まで相手の話を聞く。それに慣れていないのです。

 傾聴するにはコツがあります。まず部下の言動にカッとなったら、椅子の下などで見えないようして手の指を1本1本折ってカウントするのです。右手で足りなかったら左手も使う。そうやって時間を置くと、少し落ち着いて対応できます。

 腹式呼吸も有効です。ゆったりとした呼吸にすることで心を落ち着かせるのです。沈黙を恐れてはいけません。ビジネスの場では、商談でも会議でも沈黙の時間は敬遠しがちです。でも部下とのコミュニケーションでは、沈黙があってもいいから、とにかく傾聴する。怒るエネルギーを、聴くことに使うべきなのです。

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