不安と期待が入り混じった新入社員を、上司や先輩社員はどう迎え入れるべきか。会社におけるメンタルヘルスの専門家、帝京平成大学現代ライフ学部の渡部卓教授に聞いた。

(聞き手は熊野 信一郎)

新人が職場に配属される季節がやってきました。上司や先輩は何に気をつけるべきでしょうか。

渡部:良くないのが、「学生気分から抜け出させてやろう」とか、「社会人として一人前にしてやろう」と考え、新入社員にプレッシャーをかけてしまうことです。職場の人間には悪気はなく、むしろ励まそう、育てようとしているのですが、それが良くない結果を生むことが多くあります。

 そういう上司に直面すると、新入社員はいきなり不安だけを膨らませてしまいます。そもそも最近の若者は心が折れやすい。家庭も大学も過保護・過干渉になっていて、なるべくストレスを与えないようとしている。就職活動で初めて社会の厳しい現実に直面し、メンタル面で厳しい状況に追い込まれた学生も少なくないでしょう。

 今の多くの新入社員は、親世代のリストラといった、会社の仕打ちを見て育ってきました。だから、働くことにそのものに不安を抱いている。アンケートでは「定年まで働きたい」と言いながらも、心の奥底では会社で働くことに対して神経質になっているのです。そんなバックグラウンドがあるということを理解しておく必要があります。

渡部 卓(わたなべ・たかし)
帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所社長。1956年9月生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、モービル石油や米ペプシコーラのニューヨーク本社、日本シスコシステムズなどでの勤務を経て、2001年ネットエイジ(現・ユナイテッド)の副社長に就任。2010年にライフバランスマネジメント研究所を設立。日本産業カウンセリング学会や日本ビジネス心理学会の常任理事を務める。この4月より帝京平成大学現代ライフ学部の教授に。(写真:陶山 勉)

ガツンと言うと萎縮させてしまう。

渡部:優秀とされる上司ほど、新入社員のちょっとしたことに対して“キレて”しまう傾向があります。自信と成功体験があるので、それをベースに強く叱ってしまうのですね。

 また成功した上司ほど、「本人のためと思って本気で叱ればわかってくれる」と思いがちです。しかしこれは誤解です。ある調査では、管理職の約8割が「本気で叱ることが教育になる」と考えていました。しかしながら、若手社員の過半数が、そうしたやり方を「逆効果」だと考えています。

 本人のためと思って厳しく叱ることが、合理的ではなくなっているわけです。面白いのは、管理職に「強く叱られてよかったと思う経験があるか」と聞いたところ、「ある」が3人に1人程度しかいなかったことです。

 「本人のため」というのは正論です。でもそれは、上司と部下の信頼関係があって初めて成立するもの。価値観も違い、まだ信頼関係も築けていない新入社員に対しては避けたほうがいいでしょう。下手をすれば「パワハラ上司」のレッテルを張られます。

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