全5806文字

社会人は、そこまでは酷い状況にはなってないですよね。

諸富:いやいや、根本的な状況はさほど変わらないのではないでしょうか。中学生に比べれば成熟していますから、殺意に向かう人はいないでしょうが、大人は、逆に自分を押し殺そうとする。会社員の間で“心の病”が流行しているのは、労働強化だけではないと思います。

「自分の気持ちが特に欲してもないのに無理やりに友達を作ろうとするのは、体に悪い」というわけですか。

諸富:それだけではありません。「群れること」の弊害はまだまだあります。自分が何をどう感じていて、何を欲しているのか分からなくなることです。こういう人は人生の節目節目、特にレールから外れた時になかなか立ち直ることができません。そんな「自分を持たない人間」が、とりわけ定年を迎えると大変なことになります。

このまま高齢化社会が深刻化すれば、自分を見失った高齢者が溢れかねない、と。

諸富:一方で、1人の時間をしっかり持っている人は、自分と向き合い、深い部分で自分が本当はどう生きたいのかよく考えていることが多いから、どんな時も、心のバランスを維持することが可能です。その意味では、冒頭で出てきた「いつの間にか孤独を選んでいた人たち」は、実は自分の心がそうなることを欲して、無意識のうちに人間関係を整理してきたとも考えられます。人生の重大な局面を向かえ、もっと自分を知りたい、この後どう生きていくべきか考えたい。そんな深層意識があって、1人の時間を確保することを自分で選んできたとも言えると思います。

表面的な友達は、自分を助けてくれない

なるほど。今の時代、孤独が苦にならない人はちょっとしたニュータイプとも言えちゃうわけですね。ただ、先生、孤独に生きようと思いながら躊躇している人の中には、「あまり他人と距離を置きすぎると、いざという時、誰も助けてくれなくなるのでは」と考える人もいます。

諸富:ああ、それなら心配は要りません。広く浅くの表面的な関係で結ばれた友達が、いざという時に、本当に本気であなたを助けてくれると思いますか。相手が苦しい時に自分の身を投げ出しても何とかしようとする。そうした深い人間関係は、「孤独を知ったもの同士」の間にこそ生まれる。人間は本来孤独であり、それぞれ自分の道を生きていくしかない。そうやって孤独を引き受けた者同士だから分かり合えるための努力をする。孤独を知った者同士だからこそ響き遭える、深い出会いがあるんです。

同調圧力を背景に半ば脅迫的につながっただけの関係の相手に、いざという時、親身の支援を期待するのは無理がある、というわけですか。お話を聞いているうちに、「友だちが少ない、いないこと」は人としてダメどころか、様々なメリットすらある気がしてきました。少なくとも「誰かと絶えずくっつくことで安心感を獲得し、そうでない人間を排除しようとする人たち」より、ずっと健全に思えます。「分かり合えない人」と形ばかりの関係を維持しようと神経をすり減らすより、健康にはいいし、自分を見失わなくても済む。孤独を知ることで、“真の友”との本当に深い出会いが待ち受けているかもしれない。