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それでしたら身に覚えがある人もいると思います。「同調圧力」は教師や親からも日常的に掛けられ、口では「個性を磨け」とか「オンリーワンを目指せ」と言いながら、本当に目立ってしまえば、確実に良からぬことが起きる。そんな経験を持つ人も多いのではないでしょうか。スポーツエリートなど、集団から完全に突き抜けてしまう子は、別なんでしょうけど。

諸富:中には、年を取るにつれて、そうした同調圧力の強迫観念から開放される人もいます。しかし、染み付いた価値観を抱え、精神的に幼いまま大人になる人も多い。

なるほど。そうした人にとっては、“自分や周囲に同調しない者”は「おかしな人」であり「変な人」であり「異端」のままなんですね。彼ら彼女らにとっては、「友達が少ない人」はもちろん、「ランチを一緒に取らない人」も、「社員旅行や飲み会に消極的な人」も、みんな“集団に馴染めないかわいそうな人”になる。だからこそ、「友達の少ない人」を哀れむし、一方で、自分自身が孤独になることを恐れ、時にはノイローゼになりながらも「友達」の数を増やそうとする、と。

他人と群れれば、心を麻痺させ、楽になれる

諸富:加えて、今の社会では、たとえ表面的であっても幅広い人間関係を維持し日々に忙殺された方が、かえって楽に生きられる、という側面もあります。生きていれば、誰だって人生の節目ごとに様々な悩みが生じてくる。でも、飲み会やSNSなどで絶えず誰かとくっつき、スケジュールを埋め続けていれば、「自分の心を常に麻痺させること」が可能です。そうすれば、本来なら孤独に自分の心を深く見つめねば解決し得ない問題も先送りできる。「群れる」「つるむ」というのは、日々の不安を打ち消すうえでとても便利な道具なんです。「群れる相手」「つるむ相手」の数が増えるほど、「自分にそれだけ価値がある」と根拠なき自信を持てるようにもなる。

でも先生、そんなことをしていては、人間としてなかなか成長できないのではないかと思うのですが。

諸富:もちろんできません。それどころか、周囲と過剰に同調しようとすることで精神的に追い詰められてしまう人もいます。

先生の著書『孤独であるためのレッスン』(NHKブックス)に、まさにそんな状況に陥った女子中学生が出てきます。「周囲の友達に合わせるのがたいへんで、それでもグッと我慢して、自分を抑え、楽しくもない会話に楽しい振りをして、へらへら笑ってつきあってきた…これ以上我慢していると、自分でも自分のことがワケわかんなくなって、友だちのこと、刺してしまいそう」――。こんな深刻なケースが本当に増えているんですか。

諸富:増えています。特に、今の子供たちは、スマートフォンやSNSなどのネットの発達で一段と同調圧力に追い込まれている。有名になった「メールを3分以内に返信しなければアウト」をはじめ、所属する集団の“掟”にわずかでも背けば、たちまち仲間外れにされてしまう。いわゆる「友だち地獄」です。