全2864文字

 確かに、所得と学力には明確な相関があります。しかしこうしたデータだけでは、一体何が子どもの学力に影響を与えているのかが定かではありません。「お金がないので勉強ができないために学力が下がる」というのは、あまりに短絡的な結論です。

 この点について、大いなるヒントを与えてくれるのが、2009年の、米コーネル大学のゲイリー・エヴァンズ氏とミシェル・シャンベルグ氏による研究”Childhood poverty, chronic stress, and adult working memory”です。彼らの研究は、子どもの学力(これをワーキングメモリの程度で測定しています)に影響を与えているのは、貧困そのものではなく、(おそらく貧困ゆえに家庭や地域に存在する)ストレスであることを示唆したのでした。

 幼い頃のストレスが生物の気性に与える影響については、様々な研究があります。例えば、ネズミの実験によると(人間にも当てはまるかについては定かではありませんが)、生物学上の親の習慣とは関係なしに、生まれてすぐのころになめられたり毛づくろいをされたりした経験をもつネズミは、そういう経験のないネズミよりも勇敢で大胆に育ち、環境にもうまく適応できることが知られています。

習い事の目的はなにか

 このような研究結果が私たちに投げかけるのは「親の役割はどうあるべきか」ということだと思います。習い事をするのは悪くはありませんが、習い事そのものを目的にするのではなく、習い事を通じて子どもの心がどう鍛えられるのかを重視するべきなのでしょう。

 また、夫婦喧嘩にはじまる家庭内の不和は子どもに大きなストレスとなり、子どもの気質に明確な悪影響があることが知られています。教育熱心になるのも結構ですが、その前に夫婦がシンプルに仲良くふるまうことや、子どもに寄り添おうとする姿勢を行動で示すことなど、お金を一銭もかけずにできる大事な家庭内教育があるということは、これまで私が子どもの養育現場に触れてきて、一番の確信をもって言えることでもあります。

 なお英治出版から訳出されている「成功する子、失敗する子」は、この分野についての様々なトピックをエッセイ調に論じている書です。私がNPOでの経験を通じて学んだことがそのまま本になったと感じさせてくれる一冊で、世の中の親御さん、教育関係者全員に強く推薦したいと思います。

 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年4月17日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)