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「神や仏を持ち出さない宗教」

岸見先生のお話を聞いているとアドラー心理学は宗教に似ているような印象を受けました。

岸見:神や仏を持ち出さない宗教と言えるかもしれません。神や仏を出すと受け付けない人がいます。でも神を信仰していると言っている人が、その教えを実践できているとは必ずしも言えません。だからアドラー心理学は神のない宗教と理解しています。

 最近の心理学では、あらゆることを脳の機能に還元するような傾向があります。例えば、人が誰かを好きなのは脳がそうさせている。人間には自由意志があって、何かを自分で決められることを否定している。しかし脳の仕組みで説明できることには限界があります。

 トラウマの話もそうです。心理学では様々なことを過去のトラウマのせいにするケースがあります。でもアドラー心理学を研究する立場からは「トラウマは存在しない」と考えます。人間が過去の経験や体験によって決まるなら、治療も教育も育児も関係なくなる。何でも過去の体験で決まっているというなら、治療のしようがない。

 私はカウンセリングで過去を聞きますが、あくまで理解のためで根掘り葉掘り聞くことはありません。過去を聞いても意味がない。それで、あなたはどうしたいのか。それが重要です。何か希望を持って帰ってほしいと思って話をする。 大事なのは、過去ばかりを振り返ってあれこれ考えることではありません。今、この瞬間をあなたが、いかに生きるのかです。変われるのは自分だけであり、自分が変われば、世界も変わります。

 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年4月8日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)