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「カーネギーやコヴィ―の思想もアドラーに通ずる」

著名な経営者や自己啓発的な本の著者もアドラーの考え方を実践しているケースが多いと聞きました。

岸見:『人を動かす』で知られるデール・カーネギーは、アドラーを引用しています。『7つの習慣』を書いたスティーブン・コヴィーも思想的にはアドラーと近い。ただあえて引用していない人の方が多いように思います。アドラーの考え方は、聞いてしまったら当たり前だからです。理解が難しいこともありません。叱らない、ほめない、課題は自分に関するものと、他者に関するものに分けて考える。

 それを聞いたらほかの人にはあまり言いたくない。自分の手柄にしようと思って言わなかった人が多かったのでしょう。アドラーの思想は「共同採石場」のようなもので、みんなが自由に落ちている石を拾って持ち去った。米国にはずいぶん自己啓発の本はありますが、理論的な裏付けがない場合が多い。理屈を知らないで実践しているケースも多いように思います。

経営者の中には厳しく叱らないと社員は育たないと言う人もいます。

岸見:私は、頭ごなしに怒鳴りつけるのは有能な経営者ではないと思います。ある程度成功するかもしれないが、限界がある。若い人が、のびのび失敗を恐れず、新しい仕事に挑戦できる状況があるのかないのかは全然違う。失敗したら叱られると、自由にはふるまえません。叱って育てられた人は、盆栽のようにスケールが小さくなりがちです。

 教育では大きく育てることが大事です。社会とうまくやっていけないと思われているような人が、ちょっと指導すれば大きな花を咲かせる。短所や欠点があって、ゴツゴツとしたトゲやでっぱりがあるのが人間です。でっぱりをそいで何かを強制するような教育はよくない。

 実際には「これは困ったなあ」という人が最終的には伸びるケースが多い。上司の顔色を見て嫌われることを恐れ、上司が気に入ることしかしない社員は、自発性も創造性もなく、伸びない。本当に有能な経営者は、そういうことを分かっていて、社員が伸びる環境を整備しているはずです。