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「人生は他者との競争ではない」

「人生は他者との競争ではない」とも主張されています。しかしビジネス社会では競争があります。競争心を持たないと人は成長できませんし、組織の活力も失われるような気がします。

岸見:競争は当たり前とされていますが、アドラー哲学では、それはノーマルな状態ではありません。アドラーは競争ではなく、協力を重視します。「競争に勝ち残ればいい」という考え方では、負ける人がたくさん出てくる。むしろ、そういう人の方が多いかもしれない。競争に負けた人は、心のバランスを失って、精神的な病気になる人も多い。しかし協力を学んでいる人は、必要ならば競争できますが、負けても精神のバランスを失うことはありません。競争に負けたと落ち込むとゼロサム競争の世界になり、組織や共同体のことを考えるとプラスになりません。

 人に承認されなくても、貢献感を持つことが大事です。例えば、家事の1つに洗濯があります。妻がする場合が多いのですが、夫や子供が手伝わず、なぜ自分だけがやらなければならないのかと腹が立つ人がいるかもしれません。でも自分だけが洗濯を上手にできて、家族の役に立っていると考えるようにしたらどうでしょうか。こうした貢献感があれば、ほかの人が承認してくれなくても、満足感が得られます。自分が幸せにならないと、ほかの人も幸せになれません。

 カウンセリングに来る方は、この世の終わりのような不幸そうな顔をしている場合が多い。子供が学校に行かなくなったという、引きこもりに悩むお母さんが相談に来た場合、私は子供の味方にならないといけないと話します。お母さんが不幸でもそのことで子供が学校に行くわけではありません。

 不幸そうな態度をしている親に非があります。近所の人が同情してくれることを期待しているからです。子供は学校に行っていないので不幸だという顔をして、世間の同情を得たい。「私はちゃんと育てたのに、あの子は学校に行かなくて困っている」といった顔をする。

 しかし世間に対して背を向けた方がいい。背を向けても親は子供の味方になるべきだ。子供が引きこもりでも幸せになっていいんだと思えるようになると、お母さんは元気に若々しく、美しくなります。近所の人は「あの家は子供が学校に行っていないのに、お母さんはどうなのかしら」といった風に後ろ指をさすかもしれませんが、そんなことは気にする必要はない。嫌われる勇気を持って、子供の味方をするなら、子供と仲良くなれます。

 「どっちにもいい顔をしたい」といった人の出方や顔色をうかがって態度を決定する態度ではダメです。