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教育投資は本来効率がよい

 人はキャッシュフローを生む大事な資産であるから、それに対する投資は効率が高くなります。

 新しい工場への投資と比較して考えてみましょう。社員への教育投資、工場建設にそれぞれ1億円を投じたとします。

 教育によって社員が得た知識やスキルをうまくビジネスに生かせれば、さらなるキャシュフローを生むことになります。会計上、人はバランスシートに載らないので、1億円のすべてが費用として計上され、税務上損金となり、黒字企業であれば節税効果が見込めることにもなります。

 一方、工場もうまく稼働できれば、キャッシュフローを生みます。ただし、工場への投資はバランスシート上、現金という資産が工場という固定資産に振り替えられるだけで節税効果はなく、減価償却で調整していくことになります。工場をそのままにしておくと老朽化するので、追加投資やメンテナンスが必要となってきます。

 というわけで、理屈の上では社員教育へ1億円投資する方が、工場への投資よりも効率がよいのです。

 ところが2008年のリーマン・ショックの後、教育研修費を削った企業が少なくありません。「ヒトは財産」と公に言いながらも、多くの経営者は「会社の危機に研修などしている場合か」と考えてしまったようです。

 もっとも、やる気のない社員を無理やり研修所に入れるだけなら、確かに無駄です。「教育によって社員が得た知識やスキルをうまくビジネスに生かせ」なければキャッシュフローは増えません。研修をしてもそのままではすぐ忘れると言われており、「追加投資やメンテナンス」もそれなりに必要です。

 教育研修費を削った経営者の本心は、「うちにはロクな社員がおらん」ということなのかもしれません。

(本稿は『お金はサルを進化させたか 良き人生のための日常経済学』の第7章の一部を基に加筆修整したものです)

 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2015年2月2日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)