経営者の好きな言葉に「ヒト、モノ、カネ」があります。一昔前のスピーチによく引用されたものです。
ヒト、モノ、カネはいうまでもなく組織運営に必要な「人、物、金」、すなわち経営の三要素を示したものです。漢字で表してしまうと若干意味合いが異なってくるので片仮名表記が定着しているようです。
技術の重視やIT(情報技術)の発達などにより、「技術」「情報」(あるいは両方を合わせた概念)をヒト、モノ、カネに付け加えるべきだと言う意見もあります。
ところでなぜ「ヒト、モノ、カネ」の順番なのでしょうか。ヒトを先頭に持ってきたのは「やっぱり経営はヒト」と思っている経営者が多いからでしょうか。あるいは経営者が従業員からの受けをよくするためなのでしょうか。
実はコーポレートファイナンスの視点でみると、この順番には大きな意味があるのです。
財務会計とファイナンスは正反対に見る
ファイナンスの前に財務会計の視点から見てみましょう。企業のバランスシートの右側には投資家から集めた資金、左側には集めた資金で何を買ったかが記されています。これを資産の部と呼びます。
資産の部に注目すると、現金、売掛金在庫、工場、設備、土地の順番に並んでいます。これは何の順番かといえば、キャッシュ(現金)に換金しやすい順番です。
ワン・イヤー・ルールといって、1年以内にキャッシュに換金できる資産を流動資産、一年を超えるものを固定資産として線引きをするのです。財務の健全性を見るためのルールです。
これに対し、コーポレートファイナンスにおいては、企業の資産価値を全く違う視点で見ます。その資産が生むキャッシュフローの価値でとらえるのです。
その視点に立つと、会計上仕訳された資産は、上から「キャッシュフローを生む力が弱い順番」に並んでいると言えます。
筆頭に来る「カネ(現金)」という資産はどうでしょう。現金はいくら積み上げていてもキャッシュフローを生みません。現金はいわゆる「死に金」なのです。
もちろん現金が多い会社は財務上の健全さはあります。ただし、株主は自分が投資した資本金を有効に使っていない会社と判断するわけです。
現金の次に来る売掛金在庫はどうでしょう。これらは将来現金に変わります。ただし、それ自身がキャッシュフローを生むことはありません。
それでは工場や設備、土地などの「モノ」はどうでしょう。財務会計上はキャッシュにしにくいものですが、ファイナンス上はキャッシュを生む資産だととらえます。
工場や設備がなければ生産ができませんので、キャッシュフローを生むために不可欠の資産と言えるわけです。土地もその上に工場や店舗を建てたり、駐車場にして貸すことによって、キャッシュを生み出せます。
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