従業員5名の小さな建設会社のオーナー社長Aさんは、ある日、会社で会議中に、急性心筋梗塞で突然亡くなってしまいました。残された奥さんは専業主婦で、それまで経営のことにはノータッチ。「会社のことは従業員が引き継いでうまくやってくれるだろう、そうすれば自分も生活に困ることはないだろう」、とタカをくくっていました。奥さんにしてみれば、会社といっても小さなオーナー会社ですから、個人商店と同じ感覚だったのだと思います。

 ところが、従業員らは「早く新しい社長を決めてもらわないと、せっかく進めていた新件の大型工事の話がおじゃんになってしまいますよ!」とAさんの奥さんに詰め寄ってきました。

 困った奥さんは、とりあえず役員に相談しようと会社の登記簿謄本を見てみたものの、役員に名を連ねている人たちは全く知らない人ばかり。会社の顧問弁護士さんに相談すると、「この会社の株主はAさんだけですか?」と聞かれ、奥さんはそれにすら答えることができませんでした。

 挙げ句の果てには、「私は旦那さんの会社の株主です」と称する人まで現れて、いつの間にかAさんの奥さんや息子さんたちは、裁判の当事者になってしまいました。

 Aさんの事業が会社という組織形態をとって行われてきたものである以上、会社法という法律に則って運営されなければなりません。社長が急死していなくなってしまった時、残された家族や株主は一体、何から手を着ければよいのでしょうか。

社長がいないと何もできない

 会社という組織は、それ自体、一個の法人格として取り引きの主体となります。その法人格の目となり口となるのは、代表取締役である社長です。

 会社の代表者である社長が取引先と話し合い、合意することによって、会社は様々な契約をして取り引きをすることができます。もちろん社長から任された従業員が担当者となって取引先と話し合い、社長の決済をもらって代表社印を契約書に捺印することはあります。

 しかし、それは、あくまでも代表者である社長から任されてやっているだけです。代表者である社長がいなくなってしまうと、会社は取引先と契約をすることができなくなってしまいます。Aさんの会社が工事の発注を受けるためには、発注者との間で請負契約を締結しなければなりません。そのためには、まず、新たな社長を決めなければならないのです。

誰が取締役だったっけ?

 代表取締役である社長は、取締役会が設置されている通常の会社の場合、取締役会を開き、取締役の多数で決議して選任されることになります。このため、新たな社長を決めるためには、まず、取締役会を開く必要があります。

 ところが、小さなオーナー会社の場合、3人の取締役のうち2人は名前を借りているだけで、実際の仕事には全く関わっていないというケースも多くあります。奥さんも会社の従業員も、ほとんど面識のないような人が取締役として登記されているケースも少なくありません。

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