アポロ宇宙船のLSI開発にも貢献

 アイストン社長は、私が依頼したLSIの生産個数に驚いて、最初はできないと思ったそうです。ロックウェルは当時、軍事用やアポロ宇宙船に使うようなLSIを開発していました。そのようなLSIの歩留まりは、100個作って1個か2個、使えるものができればよいというもの。しかし、電卓に使おうとしていた私たちには、100個作って90個とか95個とか使えるLSIを作れる歩留まりが必要になります。

 アイストン社長は、それを何とかしましょうと決意してくれました。アイストン社長には本当に恩があって、彼のお墓には毎年、電卓をお供えしてきました。ずいぶんとたまりましたね。その一方で、ロックウェルにとってもシャープとの提携は大きな成果をもたらしたと思います。アポロ月着陸船の安全性を向上するには2人乗りにすることが必要で、船内のスペースを確保するためにLSIの小型化が不可欠でした。月着陸船の第1号は、我々が協力してできたんですよ。

 後にロックウェルとの共同開発は日本で波紋を広げました。日本は国策で半導体産業を育成しようとしており、アメリカ企業と手を組んだ私は、一時、国賊とも呼ばれてしまいました。

 ただ、シャープとロックウェルの提携が世界初のトランジスタ電卓、さらには月着陸船の第1号を生み出すうえで大きな原動力になったように、異質な者同士の出会いは、技術を大きく飛躍させるうえで欠かせないものです。私は、それを「共創」と呼んでいるんです。

リンゴマンゴー型の「共創」

 共創の考え方は結婚と同じです。夫婦でも、相手の立場を理解したら結婚生活は上手くいきますよね。生まれた土地が違っていても、相手のことを理解できたら上手くいくんです。

 私にとって、この共創の考え方の原点は「リンゴマンゴー」なんですよ。リンゴマンゴーというのは何かというと、私が台湾にいた学生時代に、不可能と思われていた北国のリンゴと南国のマンゴーの接ぎ木に成功して生み出した新種のことです。

 当時、北国のリンゴと南国のマンゴーは、年輪が合わないので接ぎ木は難しいとされていました。しかし、数学的な発想で枝の切り方を斜めにするなどして工夫をすることで、接ぎ木を成功させる手法を編み出しました。そうして誕生したリンゴマンゴーは、瞬く間にフィリピンや中国の福建省、そしてメキシコまで広がり、日本ではスーパーのヤオハンが目玉の商品として扱うなどして普及していきました。

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