Y:「自分に理解できないことが世の中の常識であってたまるか」という気分、自分では歯が立たない難解な科学が、実はたいしたことができないものであってほしい、「酸っぱい葡萄」のような気持ち、そういうものが、我々の中にあるんじゃないでしょうか。
松田:マイケル・シャーマー(※)というアメリカのSKEPTICS(スケプティックス、懐疑論者、無神論者)誌の編集長が、こういう例を言っておったのですよ。
(※サイエンスライター、疑似科学を批判的に研究するスケプティックス・ソサエティーを立ち上げた。TEDでの抱腹絶倒の講演はこちら)
人間は「科学は無力であって欲しい」と願っているのかも
「人間はバカだというけどそれは違う。バカはバカなりに合理的なのだ。これは遺伝的に組み込まれているんだ。2人の原始人が300万年前、アフリカのサバンナを歩いていたとしよう。そこに藪があった。前を通り掛かったら、ガサゴソという音がした。これがライオンか風なのか分からない。
それで1人はばっと逃げた。もう1人は合理主義者で、『これは風かもしれない。だったら逃げる必要はない。ちょっとテストしてみよう』と石を投げてみた。そうしたらライオンが出てきて食われてしまったと。だから、そういう合理主義者、理屈に従う人間は淘汰される。怖がって、理屈も何も無い、何でもいいからぱっと逃げるほうが生き残る」
これが「fast thinking」と「slow thinking」の辿る運命なんです(笑)。
Y:なるほど。
松田:じっくりと考える論理的思考というのは、これはギリシャとか、フランスの啓蒙主義から出てきたもので。
Y:生活に余裕が出来て生まれた「後付け」なわけですな。
松田:うん。人間にとって非常に不自然なことなんです。
Y:むしろ、下手に身につけると生存を脅かす可能性が高いものだった。
松田:そうそう。だからさっきのカーネマンは、「これを非合理といってくれるな」と。「限定合理性と言え」と。その根は、人間の本性に根差しているからね。
Y:どっちかというと、感情に流される方が人間らしい生き方的なのかもしれない。
松田:そう。だから科学とか合理主義とかいうのは、非常に非人間的なことなのですよ(笑)。飛行機が飛ぶ理由を分からないままにしておきたい気持ちと、つながっているのかもしれませんね。
『航空宇宙辞典 増補版』(地人書館)、『飛行機はなぜ飛ぶか』(近藤次郎著、講談社ブルーバックス)、『飛ぶ力学』(加藤寛一郎著、東京大学出版会)
※記事執筆、作図に当たってはこれらの書籍が大変参考になりました。なお後の2冊は「等時間通過説」を紹介しています。
(この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年5月16日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)
記事掲載当初、本文中で「大気速度」としていましたが、正しくは「対気速度」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2019/06/19 15:05]
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