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松田:いやいや、僕は違うと思います。要するに先生方が分かっていないということなんです。

Y:大学の先生がですか? 本当にまずいじゃないですか。

松田:僕が今書いている本の主題は実はそういうことで、「いかに大学教授がバカか」と。

Y:そんな(笑)。

松田:いやいや、もちろん全部とは言いません。そう言う人もいるということです。ところがそんな人は目立つのですよ。でもこれは本当に驚くべきことで、さっきの飛行機の話が典型だけど、…(以下、かなり信じがたい理系の教授たちのエピソードが続く)。

 …一連のこういう人たちと付き合って僕が興味を持つのは、その個々の事実じゃなくて、人間という生き物の本性。そして僕は「松田の最終定理」を考えるに至りました。それは「人間には理性は無い」という定理です。

 ちなみに第1定理は「人は自分の意見は主張する、相手の意見は聞かない」。第2定理、「サルは反省するが人間は反省しない」。要するに人間は理性で動いていないんです。

Y:反省するならサルでもできる、というやつですか(笑)。それにしても。

松田:この問題というのは実に根が深いのですよ。まあ、人間には理性がないと言ったらこれは言い過ぎですね。1割が理性で、残りの9割が感性なんです。

Y:私なんかはそうかもしれませんが、理系の大学の先生まで?

松田:ノーベル経済学賞を取ったダニエル・カーネマンをご存じですか?

Y:行動経済学の人ですか。『予想通りに不合理』の(※こちらYの知ったかぶりによる完全な勘違いでした。この本の著者はダン・アリエリーです。お詫びして訂正致します。表記は戒めとして残しておきます)。

松田:彼が出した本で、『Thinking Fast and Slow』というのがあります。

Y:あ、そのタイトルは聞いたことあります(邦訳『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』)。

『99.9%は仮説』の「つかみ」が効き過ぎた?

松田:単純化して言えば「fast thinking」というのは直感です。「slow thinking」というのは論理です。これを僕流に理性と感性と言いますと、人間は理性が1割で感性が9割だと私は思います。だから世の中の動きはだいたいこれで説明できる。あらゆることを感情が支配し、理性、論理を妨げる。

Y:私は、理科系の科学者こそ自分の感情に左右されず、信じていた仮説でも事実の前にはどんどん改めていくような人なんだ、と期待しちゃうんですけど、全然そんなことはないと?

松田:ないですね。まったく。これは知能、その人の思考能力とは関係ない。だって、大学教授になるような人は、入試を良い成績でパスしたはずですよね。頭は良いはずです。でも自信があるだけに思い込みも強い。それが、当人が「論理的」と思っているところにも影響するんだということです。だから、一度思いこんだ仮説を手放さないことも頻繁に起こる。

Y:うーん。

松田:仮説と言えば、Yさんが耳にされた「飛行機がなぜ飛ぶかが科学では分からない」という都市伝説は、おそらくサイエンスライターの竹内薫さんの『99.9%は仮説』(光文社新書)の影響だと思います。

Y:私も読んでみました。で、最後までちゃんと読むと「飛行機が飛ぶ仕組みについては、冒頭でかなり過激な発言をしましたが、漫才や落語の『つかみ』と同じで、わざと挑発的に書いたものです(腹が立った人がいたら、ごめんなさい!)」(以上本文ママ)と書かれているんですよね。

松田:私も竹内さんの書かれた別の文章を読んで「ああ、ちゃんと分かっている方だな」と思ったことがあります。本意は、「信じてきた常識、通説を疑い、すべては仮説であると考える姿勢を持て」、ということでしょうね。

Y:私もそう思います。頭を柔らかくしよう、という主張に大いに共感しました。しかし、「つかみ」だけぱっと飲み込んでしまう人が多くて、「飛行機が飛ぶ理由を科学は説明できない」という新たな「通説」が生まれてしまったのかも知れません。まして、説明するのがこんなに大変では、「やっぱり分かってないから、面倒くさいことを言って煙に巻いているんじゃない?」と言いたくなる気が…。

 …先生、「飛行機が飛ぶ理由は科学では分からない」という話が流布した背景には「そうあって欲しい」という我々の思いがあるんじゃないですかね。

松田:といいますと?