Y:うーん、そうだ、飛行機の開発には、コンピュータシミュレーションで翼の周りの流れを計算するそうですね。ということは、翼の循環を計算する方程式があるということですよね。
松田:はい、「ナビエ・ストークスの方程式(Navier-Stokes equation)」ですね。
Y:これが完全に解ければ、揚力は分かるということになりますね。翼の周りの循環、それによる渦の形成、成長が計算できるそうですが、そのナビエ・ストークス方程式の一般解を出したら賞金が1億円もらえるとか。そのくらいこの方程式は難解で、まだ解かれていないと聞きました。
松田:それはそうですが、あなたが仰りたいのは、「方程式の一般解がわからないことを『分かった』と言っていいのか」ということですね?
Y:はい。どうなんでしょうか。
松田:ナビエ・ストークス方程式は粘性流体の運動を記述するものなんですが、一般解、つまり、どんな値でも解を導き出すことなんか、できっこないんですよ。
Y:解くために必要な変数がめちゃくちゃ多いとかそういうことですか。
松田:変数は多くない。難しいのは方程式が非線形だからです。
Y:非線形?
松田:要するに難しいという事です。
Y:そのためにコンピューターの計算能力があるのではないですか?
数学者の「分かる」と工学者の「分かる」
松田:それは仰るとおりで、最近はナビエ・ストークス方程式の数値解法の研究は非常に進んでいます。解き方にもいろいろあるんですけれど、代表的な方法は空間を網目に切る。その中で解を求める。問題はメッシュをどのくらい細かく切れるか、です。
翼の周りの流れに生まれる小さな乱れ、これを乱流と言います。難しいのは乱流です。乱流の渦を全部計算しようと思ったら、むちゃくちゃ細かい網目がいるんです。それは現在のスーパーコンピューターでもできないんですよ。だから、そこをモデル化しているんです。乱流理論、乱流モデルというものですね。シミュレーションも、そのモデルを入れた上で行います。
そういう意味では、文字通り完全に「飛行機がなぜ飛ぶか」をすべて理屈で説明できるかと言ったら、言い切れない部分は残っているんです。
Y:乱流をある程度モデル化した空間の中でなら説明できるけれど、現実を完全に再現できているかと突き詰められると、そこまでは言えない。
松田:だから、飛行機を作る際にはシミュレーションだけではなく、念のために実際にモデルを作って風洞実験をやります。しかし最近は数値シミュレーションでずいぶん詳しい事が分かります。数値計算と実際のモデルとでどのくらい揚力にズレがあるかといえば、1%そこそこなのですよ。
Y:うーん、ということは、方程式の一般解が分からなくても飛行機を飛ばす分には問題ないから、「分かった」といっても差し支えない?
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