ところが、インターネットの発展とファストファッションの浸透により、コレクションで生み出されるトレンドは即座に世の中に広まり、ファストファッションブランドにより即座に低価格でトレンディーなアイテムが上市されるようになった。こうなるとプレミアムブランドに対する消費者の価格のベンチマーク対象は、コレクションブランドではなく先に上市されたファストファッションになってしまう。

 結果として、多くのプレミアムブランドが中心価格帯を下げざるを得ず、収益性が損なわれた。一方で、エンポリオ・アルマーニやアルマーニ・ジーンズのように、ラグジュアリーブランドをブランドのアイコンとして持つプレミアムブランドは、昨今の消費の二極化の中でも比較的堅調だ。

 これは、トップブランドを頂点とした世界観とブランド体系がしっかりしているため、消費者をその世界観の中で購買させることができ、他ブランドの価格の影響を受けづらいためだ。このようにラグジュアリーブランドはデフュージョンブランドを作ることで、プレミアム/アッパー価格帯のブランドが持つポジショニングの弱みを補完することもできる。

ミキモトが唯一世界ブランドに食い込んだ

 非営利団体であるワールド・ラグジュアリー・アソシエーションが2012年に発表した「World's Top 100 Most Valuable Luxury Brands」(ファッション、ヨット、乗用車、宝飾品、腕時計、酒類、化粧品、リゾート、航空機、その他革新的ブランドの10部門でTOP10ブランドを抽出)において、日本からは唯一、ミキモトが宝飾品部門で10位に食い込んだだけである。トヨタ自動車のレクサスも、クレ・ド・ポーボーテ(資生堂が誇るハイプレステージ化粧品)もランクインできなかった。なぜ日本はラグジュアリーブランドが育ちにくいのだろうか。消費者サイドと供給サイドから見ていこう。

 まず消費者サイドであるが、現在日本の消費者は世界一厳しい目を持っていると言われて久しい。古くは海外ブランドに弱いといった傾向があったものの、現在は単純な舶来志向はほとんどなくなり、成熟した消費者の多くは本物を見極める目を持っている。すなわち、ラグジュアリーブランドが育つ土壌はあるはずである。

 一方で、問題は供給側にある。戦後、第2次世界大戦による経済の混乱とGHQによる華族制度、財閥の解体、農地改革などで日本の富裕層は打撃を蒙り、日本の富裕層市場は大きく減少した。結果、ほとんどの企業は輸出と国内マス市場に照準を当てマスブランドの育成に力を注いできた。ところが、こうしたマスブランドで成功した企業がラグジュアリーブランドを手掛けるのは大変難しい。

 なぜなら、プライシングで触れたようにマス/プレミアムブランドとラグジュアリーブランドでは、ブランドの根本の考え方に始まり、マーケティングの4P(製品、価格、流通、宣伝)、組織のあり方、時間軸において、全く異なる考え方が求められるからである。従来型のマーケティングで成功している大企業ほど、組織にやり方が染み付いており、これらの違いを受け入れて実践するのは難しいのである。

 前述したミキモトも、創業以来一貫した厳選主義を貫き、一度たりともマスに流れず最高のパールを求めて己の世界観を磨き続けるというラグジュアリー戦略を取ってきたからこそ今がある。従来型のマスブランドを手掛けてきた日本企業がラグジュアリーブランドを生み出せるのか(答えはYESであるが簡単ではない)、日本企業にとっての大きなチャレンジである。

 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年5月12日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)

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