1980年代にパリで一世を風靡したボロルックに始まる川久保玲氏の独創的な世界観を中心として、ジュンヤワタナベをはじめとするサブブランドにもその世界観が引き継がれている。コム・デ・ギャルソンの顧客は、その世界観に惚れ込んで購入するのであり、そこには他ブランドとの相対的評価は入り込む余地は少ない。

 従って、多少の価格差で顧客が購入を悩むようなことは、一般的なブランドと比較すると遥かに少ない。この顧客を熱狂させその世界観の中に閉じ込めて他と比較させないことこそラグジュアリーブランドの強みであり、価格競争に陥りにくいという点でビジネスとして魅力的なのである。

ダイナミックに値上げし蘇ったオメガ

 このような特徴を持つラグジュアリーブランドでは、従来のマーケティング論では説明できないようなマジックが可能だ。その一つがプライシングである。例えば、スイスの機械式時計は、国を挙げての機械式時計のラグジュアリー戦略推進とプライシングの見直しにより、息を吹き返した典型だ。

 オメガを例にあげると、10年前、オメガのシーマスターは新品で買っても10万円台で買え、ボーナス払いで買える一般的なサラリーマンの本格時計入門編に適した時計であった。それが相次ぐ値上げにより、今やシーマスターは平均30万円をくだらない時計となり、分割払いにして覚悟を決めないと手が届かないブランドとなってしまった。

 もちろんオメガはこの間、クォーツ式を機械式にかえ、デザインを改め、細部を作り込み、時計にストーリーを与え、その世界観を徹底的に磨き続けてきた。だからこそ、相次ぐ値上げにも関わらず、新しい富裕層のファンを獲得し、業績を拡大し続けているのである。このようなダイナミックな値上げは一般的なブランドでは通常難しいことである。

 一方で、プレミアムブランドの値付けはポジショニングが戦略の根本にあるため、常に相対評価にさらされる運命にある。例えば、日本のアパレル業界では、近年百貨店チャネルをメーンとした高価格帯のDCブランドやセレクトショップの高価格帯ラインが苦戦している。

 原因は、スペインのZARA(ザラ)やスウェーデンのH&Mが巻き起こしたファストファッション旋風により、消費者が低価格の衣料品に慣れてしまった結果、プレミアムブランドがつけられる価格帯、ポジショニングが下がってきていることにある。ほんの10年前までは、多くの日本のアパレルブランドは、パリ、ミラノ、ニューヨークの3大コレクションなどの展示会で発信されるトレンドを意識した高感度なアイテムを、コレクションブランドの半額から2/3程度の価格で上市し消費者の支持を取り付け、十分な売り上げを作ることができた。

次ページ ミキモトが唯一世界ブランドに食い込んだ