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 「横山さん、営業目標の絶対達成そのものから少し離れますが、ぜひ相談に乗ってほしいことがありまして。部下に対するコーチングについてなのですが」

 コンサルティング先の企業から、あるいはセミナーの受講者から、こうした質問をしばしば受ける。

 昨今、多くのマネジャーが、部下を動かすためにはコーチングだと考え、会社からも要請されているが、なかなかうまくやれていない。

 営業目標を絶対達成させるコンサルタントの私に対し、なぜコーチングの質問が来るのか。私がNLP(神経言語プログラミング)のトレーナーアソシエイトであると名刺や自己紹介文に記しているためだろう。「NLPの資格をお持ちですから、コーチングに関してご存じですよね」というわけだ。定期的にNLPのトレーニングを受けているので、最新の知識は持っている。コーチングに関する質問に答えているし、今回のように原稿も書く。

 ただし、冒頭でお断りしておくが、あくまでも営業目標を絶対達成するための一助としてコーチングに言及しているのであって、私がコーチであるわけではない。私はコンサルティングはするもののコーチングはしない。理由は簡単で、私はコーチングのプロではないからだ。

 知識はあっても現場でコーチングをしてきた経験がない。プロのコーチになるには日々の鍛錬が不可欠だ。知識を得たからといって見よう見まねで実施するものではない。病気やケガをしている患者を治すドクター、あるいは健康な人の体を鍛えるジムのトレーナーを思い浮かべてほしい。にわか仕込みの知識で患者やジムの利用者に接することは許されない。

 マイナスの状態にある心をゼロの状態に戻すことをカウンセリングとするなら、ゼロ状態の心をプラスに引き上げることはコーチングと呼べるだろう。ドクターやトレーナーと同様、カウンセラーもコーチも経験を積んだプロが担うべきである。

 ところがコーチングという言葉は、急速な外部環境の変化についていけなくなった人たちを支援する妙手として市民権を得てしまった。いろいろな事情が重なったのだろうが、コーチングをリーズナブル(手軽)なテクニックだと受け止めている風潮や空気が昨今あり、それが気になる。

 そもそもの話から入る。「コーチングとは何か、説明してください」と問われたら、あなたはどう答えるだろう。

 私の経験では「部下の話をよく聞き、相手をほめて、承認して、ソフトタッチに接していくこと」と答えるマネジャーがとても多い。これは勘違いであり、そんな話ではない。

 コーチングの定義を、第一人者の言葉を借りて表現すると、「対話を重ねることを通して、クライアントが目標達成に必要なスキル、知識、考え方を備え、行動することを支援し、成果を出させるプロセス」となる。この定義と前述の勘違いの間には相当な距離がある。

 自分で勉強しているくらいだから、コーチングを否定するつもりなど毛頭ない。せっかくのコーチングがビジネスの世界で今、機能していないことを指摘しつつ、その原因と対策を考えてみた。