さてここまで、グローバルガバナンスとグッドガバナンスという2つの概念を紹介しました。
これら2つの概念では「誰が」「何のために」の中身が大きく異なります。しかしながら「何を、どうやって」の部分は「意思決定と行動をコントロールする」点で共通しています。グローバルガバナンスでは国際社会の「意思決定と行動」を、グッドガバナンスでは途上国社会の「意思決定と行動」を「コントロールしよう」としているわけです。
「ITガバナンス」と「情報セキュリティガバナンス」
がらりと変わって情報分野の話です。この分野にも「ガバナンス」を含む複合語が幾つか存在します。
まず紹介したいのが「ITガバナンス」。これは「企業などの組織が」(=誰が)、「理想とする情報通信システムの活用を実現するために」(=何のために)、「IT戦略に関する意思決定と行動をコントロールする」(=何を、どうやって)という意味です。「IT投資の費用対効果が適切であるか」「トラブルに強い情報システムが構築できているか」などを語る際に頻出する概念です。
もう一つ「情報セキュリティガバナンス」という概念もあります。これは「企業などの組織が」(=誰が)、「内部統制を実現するために」(=何のために)、「内部統制に関する戦略の意思決定と行動をコントロールする」(=何を、どうやって)という意味です。内部統制とは、企業の不祥事(違法行為・不正・トラブルなど)を防ぐための取り組みを指します。

実はITガバナンスも情報セキュリティガバナンスも、冒頭で示したコーポレートガバナンスの「部分集合」だと言えます(上図を参照)。まず、いずれの概念も「何かをコントロールする」(=どうやって)という点では共通します。
ただし、それぞれの概念の「守備範囲」(=何を)は異なります。コーポレートガバナンスでは「企業経営の全体」、ITガバナンスでは「IT分野」、情報セキュリティガバナンスでは「内部統制分野」に関する意思決定と行動が、コントロールの対象になります。ただし「IT分野」と「内部統制分野」には共通の取り組みもあります(例:情報システムからの情報漏洩の防止など)。そこで3つの概念は、上図に示したような関係を持つのです。
ガバナンスの意味は「意思決定と行動をコントロールすること」
ここまで、様々な分野で登場するガバナンスを観察しました。企業では「コーポレートガバナンス」を筆頭に「ITガバナンス」「情報セキュリティガバナンス」という概念が存在します。また国際社会の分野では「グローバルガバナンス」「環境ガバナンス」「グッドガバナンス」などの概念があります。これらはガバナンスを伴う複合語のほんの一部です。
ここで最初の疑問に戻ることにします。「ガバナンス」の意味とは一体なんなのでしょうか。どうして「統治」や「支配」という訳語だけでは、この概念のニュアンスを説明できないのでしょうか。
その秘密を解くため、ここでも「誰が」「何のために」「何を、どうやって」という枠組みを使ってみたいと思います。
ガバナンスの「本質的な意味」は「何を、どうやって」の部分に隠れています。コーポレートガバナンスでは企業の「意思決定と経営行動をコントロールすること」、グローバルガバナンスでは国際社会の「意思決定と行動をコントロールすること」が、ガバナンスの指し示す意味でした。つまりガバナンスは、何らかの主体がその組織の「意思決定と行動をコントロールすること」を意味します。
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