ここで述べた「誰が」「何のために」「何を、どうやって」という見方は、以後の説明でも重要な見方となりますので、よく覚えておいてください。
世界をともに治める「グローバルガバナンス」
ガバナンスを伴う複合語の中には、当然ながら「国や社会を治めること」に関連した複合語が幾つか存在します。
その一つが「グローバルガバナンス」です。筆者なりに意味を説明すると「国家・自治体・国際組織・企業・NPOなどの多様な主体が」(=誰が)、「国際社会の様々な課題を解決するために」(=何のために)、「国際社会の運営を、多元的・重層的なネットワークを作ることによって行おう」(=何を、どうやって)とする概念です。
このうち「どうやって」の部分をよく観察すると、その中に「意思決定」と「行動」という2つの要素が隠れています。例えば環境分野のグローバルガバナンス(これを「環境ガバナンス」といいます)では、国家・国際組織(国連やその関係組織など)・NPOなどが共同で問題解決にあたる構図があります。つまり国際条約(気候変動枠組み条約)、国際標準(ISO14000)、国内制度(環境ラベル)などの枠組みが重層的に出来上がっています。多様な主体が「意思決定」を行い、その意思決定に基づいた「行動」を生み出している構図ととらえることもできます。
グローバルガバナンスの概念は、1992年に設置された「グローバルガバナンス委員会」(世界の識者26名が参加)の活動を起源とします。当時の国際社会は、冷戦終結を受けて新たな問題解決の枠組みを模索していた時期に当たります。しかも解決すべき問題が、金融・環境・テロリズムなど多様化かつ複雑化しました。このため、国と国の関係だけで問題を解決する方法や、国連のような中央政府的な組織だけで問題を解決する方法では限界があると認識されるようになりました。
その一方で国際社会の担い手は、国家だけなく地方自治体・国際組織・多国籍企業・NPOなどと多様化してきました。このような状況が、「多様な主体によるガバナンス」という発想につながることになります。
途上国の実質的な民主化を図る「グッドガバナンス」
もう一つ紹介したいのが「グッドガバナンス」(良い統治)です。途上国援助の分野で登場する概念です。これも筆者なりに意味を説明すると「途上国政府やその援助組織などが」(=誰が)、「途上国の経済を持続的に発展させるため」(=何のために)、「統治機構や行政の仕組みを、『実質的に』民主化させよう」(=何を、どうやって)とする概念です(「実質的」の意味は後述します)。
この「どうやって」の部分、つまり「実質的な民主化」という部分をよく観察すると、やはり「意思決定」と「行動」という2つの要素が隠れています。多くの場合、グッドガバナンスを実現するためには「法の支配」「説明責任・透明性・公開性の確保」「腐敗の抑制」を導入すべきとされています。いずれも、民主的な「意思決定」と「行動」を支えるための要素です。
グッドガバナンスの概念は、援助国(先進国)が援助を行う際に「『民主化』を条件にするようになった」ことを契機に誕生しました。発信者の一つである世界銀行は、自身の行動原則が「政経分離」であるため、直接「民主化」という題目を唱えられません。そこで「良いガバナンスができているかどうか」という間接的表現を用いて、その実現度を援助の指標としました。
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