家父長制とテストステロンと多様性にどのような関係が……。男性中心社会である、ということが現在、多様性を損なっている原因、ということですか。

ロイド:そうそう。社会にテストステロンが多すぎるんですよ。「マッチョ」すぎるのです。もしあなたが、お子さんのためにより良い社会を築きたいと考えるなら、長期的な視点で持続可能な社会を作るべきだと考えますよね。そこには女性的な視点が必要になるのです。男性はそもそも長期的に考えることが得意ではありません。少しでも多く種を蒔きたがるようにできている。

はぁ…。

ロイド:しかし女性というのは、1つ1つの種を確実に耕したいと考える。一般的にですよ。だから、その生物的なバランスが考え方の上でも大事なのです。すべての人々が今、バランスを求めているのです。そんな問題意識があって、私は、男性が権力を握っていった過程をこのように本に書きました。

 少なくとも西洋の文化では、家父長制が始まったのは馬を飼いならしたことに始まる。馬に乗った男性は、徒歩の男性の5倍強くなれる。もっと背が高くなり、もっと速く走れ、もっと大きな武器を運べる。だから馬を飼いならしていない社会では家母長制の文化もあった。古代ミノス文明がそう。しかしミケーネ人とギリシア人が侵攻し、さらに不運なことに津波に襲われた。そのあとにミケーネ人が入り込んで馬を飼いならしてからは、家母長制はなくなった。その文化が古代ギリシア文化へ伝わり、中東に伝わり、さらにはローマ時代を経て、果ては英国の騎士道につながった…というわけですよ。全部、馬が関係しています。770年ごろ、遠征で軍事的な力を拡大していった、欧州のフランク王国におけるカール大帝の登場は象徴的ですね。

より巧みに馬を征する者が社会を征するようになったと・・・

現代のパワーバランスにつながる転機は16世紀

ロイド:ちなみに西洋文明がなぜ、海上を征し、貿易に精を出して植民地政策をとることができたのか。そのポイントは16世紀ごろにあると思います。マルティン・ルターの宗教改革があったころ。英国の王がヘンリー8世だったころです。ヘンリー8世は世継ぎが必要でしたが、6人の妻は誰も息子を生まなかった。離婚するか、妻をギロチンにかけるしか選択肢はない。

 そこで離婚を認めないローマ教皇とモメにもめた。あげくイギリス国教会を立ち上げて、修道院を廃止してしまい、その富をすべて「略奪」して国庫に納めました。にわかに大金持ちになったヘンリー8世は何をしたか。強力な軍艦を作りました。コロンブスやバスコ・ダ・ガマの活躍を見て、海を征するものは世界を征す、と知っていたからです。

 一方で、同時期に鄭和の大艦隊を誇っていた中国は、周辺の侵攻に悩んだあげく海上覇権をあきらめて陸の強化に力をシフトし、万里の長城を築きます。そんなわけでインド、中国など東洋には海上を征する存在がなかった。そういった歴史の偶然のおかげで大英帝国は、海洋で最も強い存在となれたわけです。

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