割合は不明ですが、デング熱には「罹っていても症状の出ない人」が相当数いると言われています。また軽症では風邪とよく似た症状を示すため、デング熱以外の病気として診断されている人もいると言われます。

 発症しなかったのか別の病気と診断されたのかは不明ですが、昨年、海外でデング熱に罹って帰国した人をヒトスジシマカが刺し、さらに別の人を刺したことが国内でのデング熱患者発生につながったと推測されています。

 しかし、私にはデング熱が日本でネズミ算式に広がり、「流行」といわれる状況になるのは、一定以上の割合で蚊と人、特に蚊の方がウイルスを持つようになったときであると考えています。

 また、「蚊にデングをうつす人」というのもデング熱に罹った人全員ではなく、デング熱の症状を現し、血液中のウイルスが相当量に達している状態の人であると推測しています。

 ここに昨年の国内感染者160名のリストがありますが、そのほとんどが代々木公園やその近辺に行った人です。また、去年も今年もデング熱になった人の家族や友人が蚊に刺されてデング熱になったというような話は1例も聞いていませんね。

黄熱病やウエストナイル熱も蚊が媒介に

 世界には蚊が媒介する病気が色々とあります。

 デング熱やマラリアもそうですが、ワクチンのある日本脳炎や黄熱病、そして、ウエストナイル熱などのほか、マイナーな病気を含めるともっともっとあります。

 これまで、デング熱を媒介する「ヤブカ」ばかりを目の敵にしてきましたが、日本にもいるコガタアカイエカやアカイエカなどの「イエカ」は日本脳炎やウエストナイル熱などを媒介します(ただし、ウエストナイル熱はヤブカも媒介します)。

 東京都のサーベイランスで捕集した蚊からは、これまでも蚊が媒介する主要な病原体の遺伝子は検出されていません。

 が、それでも昨年は、そもそも蚊の調査をしていなかった代々木公園からデング熱が出ました。 

 グローバル化や温暖化が進み、デングの蚊もデングのヒトも国際的流入を止めることができない以上、暗がりで楽しんでいたら「今度はウエストナイル熱に感染した」という可能性もゼロではありません。

 ウエストナイル熱は1999年に初めて米ニューヨークで確認され、その後、2000年、2001年と南部21州にまで感染が拡大した病気です。そもそも、東京都が2001年に蚊の調査を始めたのもウエストナイル熱を警戒してのことでした。

 世界で一番人間を殺している動物は蚊、二番目がヒトです。

 世界には3000種類以上もの蚊がいますが、蚊は人間の知らない病原体をまだまだ持っており、種類を問わず、刺されないことが非常に大切です。

 みなさま、外で女性を口説くのなら、必ずや虫よけ対策を。
 そして、夜の公園では暗がりでも薄明かりでも蚊にご注意を。

 「デング熱の処方箋・その3」。蚊のことばかり考えすぎて、ちょっと蚊に刺されるのも快感になってきた、村中璃子がお届けしました。 

 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2015年9月10日に掲載したものを転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)

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