写真:アフロ
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 はじめまして。

 経済誌からスポーツ新聞まで、医業の傍ら、医療問題を中心に執筆している、医師の村中璃子と申します。連載コラムは初めてですが、身近なことから最新のニュースまで、医療に関する色いろな記事をお届けできればと思っています。

 どうぞ末永くお付き合いください。

 さて、昨年(2014年)国内で70年ぶりにデング熱の感染が確認されてから、先週8月26日でちょうど1年。このときは全国で160人余りが感染しました。これまでも日本では毎年200人前後のデング熱輸入感染例がありましたが、久しぶりに国内患者が出たために昨年は大騒ぎとなりました。

 デング熱は、ネッタイシマカやヒトスジシマカといった蚊がウイルスを媒介し、毎年、世界中の熱帯地方の都市部で流行する病気です。

 ヒトスジシマカというのは、いわゆる「ヤブカ」のこと。山や森でよく見かける、あの白黒の蚊です。年々ヒトスジシマカの生息域が北上していることは確認されていましたが、ウイルスを持った蚊が確認されることはありませんでした。

 しかし、2015年の6月末に発表されたばかりの論文を基に作成された世界地図では、日本もついにオレンジ色に塗られ、「デング熱や黄熱病が流行する条件の整った地域」として国際的にも認知されてしまいました。

 温暖化が進む中、東京も立派に「デング熱の流行する熱帯地方の都市」になりつつあるということでしょうか。

 デング熱は、突然の高熱、頭痛などに続いて、発疹や筋肉痛・関節痛などの症状が現れ、ほとんどの場合、1週間程度で後遺症なく回復します。しかし、時に「デング出血熱」とよばれるショック状態になり、死に至ることも。

 ワクチンも特効薬もなく、罹った場合は輸液などの対処療法で回復を待つしかないので、とにかく「罹らないこと」がポイントです。

 「デング熱に罹らないためにはどうしたらいいんですか?」

 昨年は何度も、そして、今年の夏もまた、この質問を受けました。

 「蚊に刺されないようにすることしかありませんね」

 「それって、虫よけ塗れ、ってことですか?」

 張りきってこの記事を書いているうちに東京も涼しくなり、この質問を受ける回数もめっきり減りました。

 しかし、蚊に限らず、一般に昆虫の最適活動温度帯は25~30℃。もちろん、蚊は真夏でも活動し吸血もしますが、35℃以上になるような日中、特にヒトスジシマカのように屋外で活動する昆虫は日陰で休止して、活動を鈍らせます。

 また、真夏は雨が少なく、ヒトスジシマカの産卵に適した小さな水溜りが出来にくく、出来てもすぐに干上がってしまうために個体数が減少していますが、気温が下がり、台風などによって降雨量が増える9月はヒトスジシマカの数が増える時期。

 まさにデング熱が流行する条件が整ったシーズンです。

 ところで、先ほどの質問に戻りますが、虫よけ対策のスペシャリストというのは、一体どこにいるのでしょうか。

 細菌に抗生物質を使い過ぎた場合やインフルエンザにタミフルを使い過ぎた場合などでも起きることですが、すべての微生物は薬を使えば使うほどその薬に対して強くなる「薬剤耐性」を持つようになります。同様に、以前より海外では虫よけや殺虫剤の効かない「薬剤耐性蚊」が出現しているという報道もしばしば目にしてきました。では日本ではどうなのか、その辺りも気になるところです。

 「虫よけのスペシャリスト、蚊の専門家……」と、しばらく途方にくれた後、あちこち尋ねてたどり着いたのは、日本を代表する殺虫剤メーカー「フマキラー」でした。

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