ドイツでは、「第4の産業革命」が進んでいる。工業のデジタル化によって21世紀の製造業の様相を根本的に変え、製造コストを大幅に削減する。「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」と呼ばれるこの巨大プロジェクトにドイツが成功すれば、高コスト国としての悩みは一挙に解消できる。ドイツ連邦政府、州政府、産業界、学界は今、総力を挙げてこのメガ・プロジェクトに取り組んでいる。
日本では知られていない巨大プロジェクト
ドイツと同じ物づくり大国・貿易立国である日本で、インダストリー4.0はほとんど知られていない。新聞やテレビも、この革命の実態を詳しく伝えていない。だがこの産業革命は、日本にとっても大きなインパクトを持つ。もしも我が国の産業界がこの波に乗り遅れた場合、ドイツに大きく水を開けられる危険がある。
「工業のデジタル化」というと、読者の皆さんの中には、「日本でも工業用ロボットなどによる生産工程の自動化は進んでいる」と思われる方が多いだろう。しかし今ドイツが官民一体で進めているこのプロジェクトは、これまでの生産工程の自動化よりも規模が大きく、深いものになる。
インダストリー4.0は、生産工程のデジタル化・自動化・バーチャル化のレベルを現在よりも大幅に高めることにより、コストの極小化を目指す。現在ドイツの電子機器メーカーや自動車メーカー、IT・通信企業が必死に取り組んでいるのが、スマート工場つまり「自ら考える工場」の開発である。
中核は「考える工場」
毎年4月に、ドイツ北部の町ハノーバーで、世界最大の工業見本市ハノーバー・メッセが開かれる。今年のハノーバー・メッセでは、インダストリー4.0が焦点だった。
見本市会場を訪れたアンゲラ・メルケル首相は、ある模型の前で足を止めた。それは、ベージュ色のプラスチック素材で作られた、未来の自動車工場の模型である。ドイツ最大の電機・電子メーカー、シーメンスが独フォルクスワーゲンと共同で開発中のスマート自動車工場の概念を立体化したものだ。
シーメンスのジョー・ケーザー社長が、マイクを片手に解説する。スマート工場は、生産施設をネットで結んだ生産システムである。インダストリー4.0の世界では、製造に関わる企業は物理的に近い場所にある必要はなく、ネットによって結合されたバーチャル・クラスターを形成する。
これまでクラスターというと、自動車部品メーカーや組立工場が一定の地域に集中するクラスターを指した。生産コストが比較的低い中東欧のチェコやハンガリー、スロバキアなどに形成されていた。
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