しかし、ラグマンの分析結果が示したように、現実はそうはなっていません。2001年は既にアジア諸国も経済的に台頭しており、企業のグローバル化が進んできたと言われていた時代です。そのような時期でも、世界中でまんべんなく売り上げを実現できている企業はほとんどなかったのです。

 さらに、この「フラット化する世界」に異を唱える視点を提供し、その後の国際経営学に大きな影響を与えたのが、2003年にJIBS誌に発表された、元ハーバード大学経営戦略部門ディレクター(現スペインIESE教授)のパンカジュ・ゲマワット教授の論文です。

 ゲマワットは、「たとえば世界の貿易・直接投資などの各種経済データを精査しても、十分に世界がグローバル化したとは到底いえない」と結論付け、現在の世界はきわめて「中途半端なグローバル化」の状況にある、としています。彼はこの状況を「セミ・グローバリゼーション」と名付け、企業が海外戦略を考える際にも、この事実を踏まえて戦略決定をしないと判断を見誤る、と主張します。(彼の著書は日本でも『コークの味は国ごとに違うべきか』(文芸春秋社)というタイトルで刊行されています。)

 フリードマンの「フラット化する世界」を批判するのは、経営学者だけではなありません。

 たとえば米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の高名な国際経済学者であるエドワード・リーマー教授は、2007年に「ジャーナル・オブ・エコノミック・リタラチャー」に発表した論文の中で、様々な角度から「フラット化する世界」を手厳しく批判しています。

 さらに有名なのは、カナダ・トロント大学のリチャード・フロリダ教授でしょう。彼は多くの学術論文やメディアへの寄稿を通じて、あらゆるデータ分析による傍証をもって、「世界中の経済活動、特に知的活動や起業活動などは、特定の都市など狭い地域にどんどん集中している。すなわち世界はむしろスパイキー化(フラットの反対で、ギザギザしている、という意味)しつつある」と主張しています。

真にグローバルな日本企業は?

 企業のグローバル化に戻りましょう。日本企業については、はどうでしょうか。

 先ほどのラグマンの2004年論文では、真にグローバル化している大企業は世界に9社しかなく、そのうちの2社(ソニー、キヤノン)が日本企業でした。実はラグマンは、その後2008年に英ウォーリック大学のサイモン・コリンソン教授と共同でJIBS誌に日本企業に特化した論文を発表しています。

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