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 北朝鮮レストランは丹東に5軒ほどあり、朝鮮料理を出して北朝鮮の女性が給仕役としてテーブルにつく。こうした飲食店は中国と北朝鮮の政府間の取り決めによって設置され、職員は北朝鮮政府が派遣する仕組みになっている。いわば、北朝鮮の外貨獲得のために、中国が活動の場を提供する経済支援の性格を帯びている。

 だからレストランで働く若い女性たちは北朝鮮の“国家公務員”であると同時に、“海外駐在員”でもある。個人行動は厳しく制限されており、宿舎とレストランの間を往復する以外、ほとんど外出もできない。たまの買い物も数人一緒で相互に監視をさせられ、脱走でもしようものなら北朝鮮に残った家族が罰せられる。駐在期間はほぼ5年で、3年経たなければ故郷への一時帰国も認められないために、親の死に目に会えないこともあるそうだ。

 核問題で世界を翻弄する北朝鮮と6カ国協議の議長国である中国の間には、緊張関係と協調関係が交錯している。短い時間ではあったが、その最前線と言える丹東の国境地帯で、両国の微妙な関係を垣間見た気がした。

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 日本政府は北朝鮮との間に、核問題だけでなく拉致問題も抱えており、経済制裁などで圧力をかけている。しかし、北朝鮮を挟んだ日本の反対側で、自国の人権問題すら解決できない中国が北朝鮮経済の命綱をコントロールしているのが現実である。ある種のやりきれなさを押さえられない光景が広がっていた。

辺境が鍛えた中国の経済外交
―6カ所の国境地帯探訪を終えて


 「日本は大丈夫なのだろうか」。中国の辺境地帯を巡りながら、なぜかそんなことばかり考えていた。

 速い。そして先を考えている――。中国の辺境地帯で起こっている現象を見た感想を一言で表現すると、こうなる。税関や入国管理所が次々と整備され、高速道路や鉄道で近くの都市と直結される。自国内ばかりでなく、国境の向こうにまで人やカネを出して国家戦略を遂行する様は良く言えば大胆周到、悪く言えば力を盾にした横暴不遜にも映る。

 「チャイナプラスワン」で日本にベトナムブームが起こる数年前から、中国はベトナム国境に向かう高速道路の整備を始め、資源インフレで中央アジアが潤う前から、カザフスタン国内と直結する鉄道の工事に着手していた。この速さと戦略性が今の日本外交にあるだろうか。

 確かに、そのスピードは日本と単純に比べられるものではない。中国は自国の貧困や福祉、人権問題などに目をつぶっても国家予算をインフラ整備や対外戦略に使える一党独裁政権であり、元来、意思決定は速い。また、貧富の格差に起因する「植民地構造」が国内にあるから安い労働力を湯水のように動員でき、突貫工事はお手のものである。

 世界中のカネが集まってくる今が勝負とばかりに、アジア盟主の座への野望を隠さない中華思想発祥の国、中国。アジア諸国がその実力とリーダーシップを認め、相対的に日本のプレゼンスが低下していくのなら、それはやむを得まい。

 しかし、国内外の深刻な問題を無視したままで中国の膨張が続くのであれば、その先には不幸な現実が待ち受けることになる。足元を見れば、不透明に拡大する中国の防衛費に毅然と対処できないまま様々な資金援助を続け、環境や先端技術を惜しげもなく提供し続ける日本の姿がある。人権から環境問題まで含めた普遍的な価値を守るため、アジアでいち早く先進国となった日本は中国にどう関与していくべきか、長期的視野に立った備えと覚悟ができているのだろうか。

 恐らく「辺境」での経験は中国を鍛えたのだろう。戦時中、冷戦時代を通じ、多くの国と陸続きで国境を接する緊張感とリスクの中で、研ぎ澄ましてきたアンテナと交渉術。それが今、開花している。島国の日本は外敵から身を守りやすかった分、外の世界への感度は鈍いまま、今に至ってしまったのではなかろうか。

 隣国とのパイプを太くして、人・モノ・カネの行き来を拡大するのは、大海に浮かぶ船が八方に碇を下ろすような効果がある。中国は今、経済力でアジアでのポジションを固めつつある。対する日本は、アジア各国への影響力確保のために資金力や技術力で張り合うのか、それとも膨張路線に牽制球を投げるのか。それを議論する素地すら日本では醸成されていないとの印象を強くした。

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