※この記事は日経ビジネスオンラインに、2009年7月8日に掲載したものを転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。

2007年9月10日号より

 公安警察に捕まって、しばし拘束。今まで訪れた国境地帯と勝手の異なる緊張感は、核問題に揺れる北朝鮮や6カ国協議の膠着状態と無縁ではなかった。北朝鮮を裏玄関から支えつつ手綱を引く中国。外交巧者の駆け引きを垣間見た。

 「おまえ、何やってんだ!」。駆け寄ってきた公安警察の男に、カメラを持っていた手をグイとつかまれた。

 遼寧省丹東市。北朝鮮と国境を接する街のゲートで、通過するトラックの写真を撮っていた時のことだ。特に機密があるとも思えない単なる「物流の風景」だが、それでもダメらしい。慌てて周囲の人が取りなしてくれたものの、男は収まらない様子で畳みかけてきた。

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 「それはスパイ行為だ。ロシアの大使館員がここで写真を撮った時だって、オレの目の前で写真データを消させたんだ。おまえはどこの者だ!」。この剣幕では冷静に話し合おうとしても無駄である。写真データは「消したふり」でごまかし、何とかその場を逃げ出した。

 確かに、税関が絡むと撮影禁止と言われても仕方ない面がある。市の中心部から外れた民間の物流センターに場所を移すことにした。ミャンマー、ベトナム、ロシアなどとの国境地帯でも同様に写真を撮った問題のない場所…と思ったのが甘かった。

 「止まれ! 手を動かすな!」。シャッターを1回しか切っていないのに、100mも向こうから声が飛んできた。やってきたのはやはり公安警察である。民間業者の敷地内を公安が警備しているのはただ事ではない。国境ゲートの時と違って荒っぽさはないものの、何を説明しても今度は聞く耳を持たない。詰め所に連行されると3人がかりでの事情聴取が始まった。

 しきりに本部らしき場所と連絡を取っていて、いやが上でも緊張が高まる。だがそれも10分くらい経つと「経済視察に来た日本人の脱線行為」ということで収まる気配が出てきた。身分証のコピーを取って取り調べの体裁を整え、何とか帰してもらえることになった。「今日は何と運が悪いのだろう」と思ったが、警官が口にした最後の言葉で合点がいった。

対岸に北朝鮮を望む緊張

 「6カ国協議をやっていることは知ってるだろ。面倒になりそうなことをされるとこっちも困るんだよ」。ほかの国境地帯とは明らかに異なる神経質な対応は、やはり対岸が渦中の北朝鮮であることに原因があった。

 中国と北朝鮮の国境線は総延長1400km余り。そのほとんどが川で、何カ所かの国境口で貿易が営まれている。中でも取扱高が最も大きいのが丹東で、2006年で約17億ドルあった中朝貿易の約7割を占める。そのほか、重油など中国政府からの経済援助として北朝鮮に提供される物資はすべてここを通ることになっている。

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