波多野 ご主人もそういう方なんですか。

有川 ダンナは、そうですね、私が今までの人生の中で会った中で、一番「大人な人間」ですね。

波多野 今までおっしゃっていたみたいな、格好いい背中を見せて、楽しく生きている大人……。

有川 そうですね。追い詰められて、それで嘆くということのない、追い詰められた状況を楽しむような人なんです。「追い詰められた状況を楽しめるようになってなんぼやで」と、そういうことを言っちゃうタイプですね。

波多野 格好いいですね。すごい恋愛ドラマがあったりするんですか(笑)。

有川 いや(笑)、そんなに大したものでは……。

 そうですね。たぶん経験してきたことが、私なんかに比べてすごくシビアだったんだろうな、というのは何か分かるんですけど。

-- 「追い詰められた状況を楽しめる」というのは、どうやったらできるんでしょうね。あがいてみたところでうまく通らなくて、もうあがくだけしんどいし、誰も褒めてはくれない状況が続いて、有能な人が仕事を投げていくのを見ていると切実に思ったりしますね。

会社は転職できるけど、命や家族のスペアはない

有川 やり方、というか、あがいているうちにやり方が見つかる、みたいな。少なくとも、うちのダンナを見ていたり、話を聞いていたりすると、そんな感じは受けましたね。あがくうちにどうしたらいいかが分かる、何とかなるという。難しい案件を捌くことをゲーム的に楽しめるようになっているような感じがしますね、彼は。自分と案件の勝負というか。

有川浩氏

有川浩氏

 それができるのは「物事の優先順位を間違えない」「命よりも大事な仕事はない」ということが、彼の中にあるからかな。聞いた時にすごく衝撃を受けたのは、「組織の穴なんて、どんなにその人が職場で有能で必要とされていて、あの人がいないと仕事が回らないとか言われていたとしても、その人が明日死んだら、その穴はどうにかして誰かが埋めるんだ」という意見。

 自分は「絶対に必要なパーツでは、ない」というところを見切ってしまうと、非常に動きが取りやすいらしいですね。過労死するまで働いて、自分がいなくなっても、穴は代わりの誰かが埋めるんだということが分かっていたら、優先順位は間違えない、みたいな。仕事より命が大事。家族が大事。会社は転職できるけど、命や家族のスペアはないから。

-- うわっ。普通そこで「俺はそういう、組織から必要とされないような人間じゃないんだー」と、ついつい思っちゃうわけですが。

波多野 すごく正しい心理的な障壁の取り払い方ですね。むだな防壁をつくることで動けなくなっちゃったり、間違っちゃったり、ぶち当たったままになっていることが多いですからね。

-- しまいには「こんなにやっているのに報われない」と、ますます自分の外も内側も傷つけちゃう状態になったり。

有川 ダンナの考え方の影響は、結構大きいかもしれないですね。組織を語るうえで。

-- 組織そのものに「正しさ」を委ねるんじゃなく、その中で個人がどうあがけるか、そしてそれに潰されないか、ですかね。与えられた状況の中で日和らない、格好良い大人たちの背中。そこにいつか自分を重ねてみたいもんです。今日は、ありがとうございました。

(写真 大槻純一 取材・構成 波多野 絵理/山中 浩之)

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