-- 自衛隊でも、一流企業でも、その組織にいることそのものが、別に格好いいことではない。むしろ、組織自体が要求される理想というか、服従への圧力が、高かったりしますね。個人にとっては段差や齟齬を埋めにくい環境かもしれない。

大震災の現場で「認められないキツさ」を見る

有川 そうですね。特に自衛隊なんかは、叩かれることもすごく多い組織であって、何をしても絶対にその成果を認めない、悪く言う、という人が一部にいることが宿命づけられている。

 それこそ震災の時に、被災者じゃなく、全然関係ないところから来た人が災害派遣された部隊に「帰れ」とかね。これ私も阪神・淡路大震災を経験してるからよけい思うんですけど、もう「お前らが帰れ!」と。もう本当に阪神の当時はね、「貴様そこに正座だ、その眉毛刈っちゃる!」とか思いましたからね。あの体験をして、スタンバッてた自衛隊を出さなかったって話を覚えている限り、被災者としてそう思っちゃいますよ(笑)。もちろん投票権にもその思いは反映させていただきますとも。

―― おおお。

有川 すみません、長くなりましたがともかく単純に自衛隊だから格好いい、ということにはなり得ないわけですよね。佐々淳行さんの著作なども参考にさせていただいたんですが、学校の先生が「この中でお父さんが自衛隊や警察官の人は立ちなさい」って立たせて、「この子たちのお父さんは悪い人です。この子たちは悪い人の子供です」とかね、そういったエピソードがわらわら出てきて、すごくキツイ中で“戦って”きているんだな、と。まあ時代性もあったんでしょうし、その辺はいろいろ、個人的には思うところがありますけれども。キツイ中で戦って任務に従事している人々はカッコイイですよね。

-- 図書館シリーズでも、図書館側が一枚岩ではなく、個々に事情や弱点があって、それが熱血主人公の、笠原郁の足を何度もすくいます。その組織と個人の狭間に立って、理想が実現しないことを知りつつ、最善の策を巡らすのが、堂上篤ら大人の上司たち。

有川 昔から自分のキーワードとして「あがき」というのがあるんですね。

-- 「あがき」ですか。

日和らず「あがける」大人は、格好いい

有川 「大人の義務として、格好よくあるべきだ、格好よく楽しく生きるのが大人の義務だ」と思っていて。そうじゃないと、子供達は大人になりたいなんて思わないじゃないですか。

 私たちはたぶん、格好いい背中を見せてもらえた、ぎりぎり最後の世代なのかなとか思っていて、そうしたら今、私たちの世代の背中は、今の子供たちにはどう見えているのかなと、ちょっと思いますよね。

-- 格好いい、というのは。

有川 格好よくというのは、例えばスマートに、おしゃれで、洗練されているとか、そういうのじゃなくて、自分が「日和らない」ことが、私にとっての格好よさなんです。

-- 日和見(ひよりみ)をしないことですか。

有川 そうです。日和らないために、あがく、みたいな。でも、組織の事情で日和らなくちゃいけないこともあったりしますね。そうした中での、日和らないためのあがきのすべてを、格好いいと私は思っていて。そうした苦労をしている人たちはみんな格好いいと思っています。そういう人たちをちょっとでも書けたらな、と。

-- そういう思いならば、会社の中にもいくつもありそうですよね。『空の中』で航空機メーカーのお話が出てきますけれど、最近、うちの雑誌(日経ビジネス・2月5日号)でホンダの特集をやっているのですが…。

有川 ああ、航空機、造っちゃいましたね、本当にね。

 すごいのは、本田宗一郎さんが、たしか会社を立ち上げて間もない時期に、航空技師を求むみたいな広告を打っているんですよね。

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