消費不況下でも衰えを見せぬイトーヨーカ堂の高収益体質。売り場面積2坪の洋品店時代から、その経営に貫かれてきた伊藤雅俊社長の商人哲学の神髄は「恋する若者のようにお客様を愛する心」。「愛情のない人間に市場の変化は見抜けない」と指摘する一方、スーパー限界説を否定し、「問題がある所にこそ新しい市場が宇忌まれる」と、経営者に柔軟な発想の必要なことを強調する。
(聞き手は当時の日経ビジネス編集長、杉田 亮毅)

相変わらず、消費市場にはいま一つ明るさが見られず、業績不振に悩む小売企業も多いようですが、こんな環境にもかかわらず、イトーヨーカ堂は先頃(1983年当時)、前年比51%の経常増益という中間決算を発表しました。この好調の秘密を解き明かすために、改めて伊藤社長の経営哲学にさかのぼってお話をうかがおうと思っております。
伊藤雅俊氏(以下、伊藤):秘密と言われましても、別に突飛なことをやっているわけではありませんので、お答えに困るのですが、ただ、私は、消費が冷え込んで売れなくて困る、というような考え方は、商人としては間違っているんじゃないかと下の者に常々、言っているのです。
商品というのは、売れなくて当たり前なんです。ただ品物を並べておいて、それをお客様が買って当然、なんて考えるのは本末転倒している。そんな考えだから、ちょっと売れなくなると、「消費が不振で…」などと市場のせいにしたりして、不平や不満を言うようになるんです。
私どもが最初、2坪の店で商売をしていた頃のことを考えると、売れない日の連続でしたよ。最近の風潮がどこかおかしいんじゃないんですか。
「お客様が見えるのは年2回だけ」
東京・千住で、母上と社長のご兄弟が始められた洋品店のことですね。
伊藤:狭い店なのに、そこに置く商品がない。問屋さんが売ってくれないんです。まして、銀行がカネを貸してくれるわけはない。そんな状態だから、私などは、お客様の方から買いに来ていただけるのは年に2回の盆暮れだけ、普段はお客様はお見えにならないのが当たり前なんだと教えられてきました。
ないないづくしの中で、さあそれでは、どうやったらお客様に来ていただけるか、どうやったら商品を卸してもらえるか、と考えるのが商売の本来のあり方なんです。業績とは、そんな日常の心構えの結果にすぎないと思うんです。
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